memorial

□君さえ居れば。
3ページ/3ページ


雲に隠れていた月が再びゆっくりと顔を出し始める。

窓の外を見下ろすと、不意に視界に入った色に、一瞬自分の周りの時間が止まったかのような錯覚を覚える。

月明かりに照らし出されたのは、鮮やかな朱色の髪にまばゆいほどの白い肌。

「……っ!」

考えるよりも先に体が動いていた。

玄関を飛び出て階段を一気に駆け降りる。

息を切らしながら目を向けた先には、たった今まで考えていた少女が立っていた。

イヤ、もう少女とは呼べないかもしれない。

顔はまだ少し幼さが残っているものの、3年前と比べると背も伸びて体つきもだいぶ大人っぽくなっていた。

「神楽…」

3年間ずっと焦がれていた存在が、今自分の目の前にいる。

「銀ちゃん。」

3年前と変わらない声。

「ただいま。」

「!」

柔らかく微笑んだ神楽は、あの時と同じでとても綺麗で。

神楽の腕を掴んで抱き寄せ、その存在を確かめるように抱きしめる腕に力を込めた。

「おかえり。」

耳元で囁けば、小さく震えながらその細い腕が背中に回される。

「…っ銀ちゃ…」

神楽がこんなにも近くにいることが泣きたくなるほど幸せで。

なぁ、もう伝えてもいいだろ?

「神楽…」

「何アルか?」

透き通った青い目が俺を見上げる。

「好きだ。」

3年前から…イヤ、それよりももっと前から胸に抱き続けてきた想い。

「お前が、好きだ。」

「……っ!」

一瞬大きく見開かれた青い目からたちまち大粒の涙が溢れ出す。

「私もっ…銀ちゃんが好きアル…!」

その言葉に、声に、真っ直ぐに見上げてくる真剣な目に。

どうしようもないくらいの愛しさが込み上げてきて。

その想いを言葉では上手く伝えられずに、俺は3年間の空白を埋めるようにただただ強く抱きしめた。

頬に触れて涙を親指で拭ってやると、神楽がはにかみながら自分を見上げてくる。

涙で濡れた目に、それでもはっきりと俺の姿が映っていて。

それだけでこんなにも嬉しくなる。

「…銀ちゃん。」

「…ん?」

「誕生日オメデト。」

「…覚えてたのか?」

「当たり前ヨ。ギリギリ間に合って良かったネ。急いでたからプレゼントは用意できなかったけど…」

「いらねェよ。」

「え?」

不思議そうな顔をする神楽の頬をそっと撫でる。

「お前が戻ってきてくれたんだ。それだけで俺はもう十分だよ。」

そう、お前がそばに居てくれさえすれば。

「銀ちゃん…」

頬を薄く染めながら目を細める神楽にまた愛しさが込み上げてきて。

腕の中の存在を噛みしめるようにもう一度強く抱きしめると、俺は神楽の桜色の唇に口づけを落とした。

もう、二度と離れないように。

決して離さないように。

そう願いを込めて。




end.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ