memorial
□君さえ居れば。
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「…神楽ちゃん、今どうしてるんですかね…」
「……さあな。」
「銀さん…」
「まぁ、便りがないのは元気な証拠だって言うし、あのハゲと一緒なんだ。えいりあんを追っていろんな惑星を飛び回ってるさ。」
「そうですね…」
そう言って新八は少し寂しそうに微笑んだ。
神楽が宇宙に旅立ってから、最初の頃はよく万事屋に手紙が届いていた。
どんな惑星に行っただとか、一人でえいりあんを倒せるようになっただとか、親父は相変わらずハゲているだとか。
拙い字だが一生懸命に書いたであろう手紙。
それが届く度に、俺達は神楽がいた頃の万事屋の思い出話をしてよく笑ったりしたものだった。
だけどいつの頃からかその手紙もパッタリと来なくなってしまい、それからだろうか、俺達の間であまり神楽の話をしなくなった。
だから、さっき新八が自分の考えていた事を同じように口にした時は内心驚いた。
イヤ、コイツもずっと一緒に万事屋で働いていたからこそ、この騒がしさの中で俺と同じように感じたのかもしれない。
そんな事をボンヤリ考えていると、静かな新八の声に現実に引き戻される。
「ねェ、銀さん…」
「あ?」
「もう今更かもしれないですけど…」
「……?」
酒を飲みながらチラリと目線だけを返す。
「あの時……神楽ちゃんに銀さんの気持ち伝えなくて良かったんですか?」
「!」
「ハァ…何て顔してんですか…知ってましたよ、銀さんの気持ちは。気づかない訳ないでしょ。何年一緒にいると思ってんスか。」
呆れたようなその表情は3年前から全く変わっていなくて、思わず苦笑してしまう。
「…ハッ、本当オメェには参るよ…」
「銀さん?」
「…いいんだよ。アイツの夢の邪魔になるような事はしたくなかったしな。…今どこにいんのかわからねェが、アイツが元気にやってんならそれで…」
そう、それでいいんだ。
この3年、何度も自分に言い聞かせてきた。
「…何か、銀さんて器用なんだか不器用なんだかわかりませんね。」
「……うっせェ。」
困ったように笑う新八を横目に、俺はまたグイッと酒をあおった。
夜も更けた頃、俺の誕生日を祝うという名目の宴会も自然とお開きという形になり、道場へ帰る新八達を見送った後、自分もおぼつかない足取りで万事屋へと戻った。
電気もつけず、定春の眠る居間を通り過ぎて和室へ向かう。
窓際に腰を下ろせば、冷たい夜の空気が火照った顔に心地よい。
窓から空を見上げると、月が明るく柔らかな光を放っていた。
そこでまた思い出すのはあの少女の事。
あの日。
ターミナルへ神楽を見送りに行った日。
今にも泣き出しそうな顔の神楽を何度抱きしめたい衝動に駆られたことだろう。
自分の気持ちを打ち明けてどこにも行くなと言ってしまえればと何度思ったことだろう。
それでも必死で堪え、心の中で何度も何度も自分に言い聞かせながら、そっと神楽の背中を押してやった。
引き止めるな、神楽の夢の為だ、と。
『それじゃあ、行ってくるネ。』
そう言って涙ぐみながらも微笑んだ神楽の顔はとても綺麗だった。
こんな風に感傷にひたってしまうのは、新八の言った通り、年をとった証拠かもしれないなんて自嘲してみても。
神楽の笑顔も、自分の想いも何もかも。
今でも忘れることができない。
忘れられる訳がない。
「神楽……」
呟いた言葉は静かに夜の空気に溶け込んで消えた。
月はいつの間にか雲に覆われてしまっていた。