memorial
□振り向いてくれベイビー!〜ツンなあの娘を落とす方法〜
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恋は盲目。
恋をすると周りが見えなくなってしまうという。
今、坂田銀時(17)は本当に何も見えない状況にいた。
ちなみに物理的に、である。
「アレ、何コレやだコレ真っ暗なんですけど。それに何か湿ってて臭いしオマケに…って、イダダダッ…!?」
「定春、そんなもの口に入れたらお腹壊すヨ!ペッてしなさい、ペッて!」
くぐもって聞こえてくる不吉な言葉に、ああ、ここは犬の口の中だったかと一瞬痛みも忘れて冷静に考える。
「イヤイヤ、ンな冷静に考えてられる訳ないでしょ!ねェ、コレ絶対牙が頭に喰い込んでんだけど!マジで激痛なんだけど!!しかもクッセェんだけどォ!!?」
襲い来る痛みと獣臭に苦しみながらも、銀時の頭にはこうなる少し前の光景が浮かんでいた。
『…お前には負けたネ。』
『え?』
『まったく…お前のしつこさはそのクルクルの天パと良い勝負アル。』
『それって喜べばいいの?悲しめばいいの?っていうか、え?つまりどーいうコト…』
『だから…』
バクッ
そこで視界が途切れた。
(…だから、つまりはどーいうコト?)
暗闇の中、銀時は首を傾げた。
(あ、何か痛くなくなってきた…って、ウソ!やっぱり痛ェ!!)
経緯はこうだ。
ある日、甘味処で大量の団子を頬張る神楽に出会った銀時少年は、彼女に一目惚れをした。
普段はやる気が少しも感じられない死んだ魚の目をきらめかせ、銀時は猛烈アタックを開始する。
しかし相手は大学生。
高校生の銀時など全く相手にされず、告白しては即振られるを繰り返していた。
時々向けられる冷たい視線に自称ドSは何故かドキドキゾクゾクしつつ、それでもめげずに必ず振り向かせると宣戦布告。
同じ轍を踏まないようにと、面倒臭がりの銀時にしては珍しく作戦を考えることにした。
以下、これらは作戦内容とその結果を記録したノートから抜粋したものである。
『作戦その1・ベタに赤いバラの花束を贈る』
『…そのつもりだったが金欠の為にあえなく断念。変わりにヅラから聞いたティッシュで作ったバラを渡すとちょうど良かったと盛大に鼻をかまれた。かんだ後の赤くなった花がかわいかった』
『作戦その2・ラブレターを書く』
『コレもベタだが、金もかからないし、口では言えないことも文字でなら伝えられる気がする。…と思っていたが、別の意味で口には出来ないあんなコトやそんなコトをせきららに書いてしまい冷たい目でビリビリに破られる。でも読んでくれただけ一歩前進したと思う』
『作戦その5・ラブソングを作って贈る』
『歌詞を途中で忘れてしまい、ラララ〜とルルル〜で何とか最後までごまかす。アカペラよりひき語りの方が良かったかもしれない。あ、でも楽器はタンバリンしかできないからたたき語りっていうのか?』
『作戦その8・プレゼント』
『コレは相手の好みの問題もあるから入念に下調べをしてから実行した。彼女の大好きなものは酢昆布とTKG、それに動物(犬を飼ってるらしい)。探すのには一苦労したけど、TKG柄のパンツを何とかゲット。会計の時の店員のお姉さんの引き気味の営業スマイルは忘れてしまおう。当の本人にはまるでゴミを見るかのような目でツバを吐かれた。ちょっと興奮したのは気のせいだと思いたい』
『作戦その11・押してダメなら引いてみる』
『今まで毎日のように会いに行ってたけど、血をはく思いでガマンすることにした。そんで今日三日ぶりに会いに行ったら、涙を流して再会を喜ぶどころか名前をまちがえられた…。あの黒もじゃでもあるまいし、一体俺のどこに金色の要素があるんだよ…』
『作戦その15・ギャップでドキッとさせる』
『これは雑誌か何かで見かけた情報だが、ようは普段とは違う姿を見せればいいんだよな?ってコトで、銀髪ストレートのヅラを手に入れてみた。それを被ってさっそく会いにいったら、「何かキモイアル」とバッサリ切られた。確かにいくらストレートでもまる子ちゃんカットはマズかったか…』
『作戦その20・強くて頼りになる男をアピール』
『ピンチにおちいってるところをカッコ良く助けに入って男らしさを見せつければ彼女もイチコロだろう。よく日さっそくチャラそうなナンパ野郎3人組にからまれている彼女を発見。コレはチャンスだと助けにいこうとしたら、その前にソイツらは彼女にしゅん殺されてしまった。めっちゃ強かった。その後の「おととい来るアル」って決めゼリフもカッコ良くて、逆に俺が彼女の男前なところにほれ直してしまった』
『作戦その21・家庭的なところをアピール』
『今の時代、男だって料理や家事ができて当たり前。俺と結婚したら(ゆくゆくはの話だが)これだけお得だってところをアピールしない手はない。まずは簡単なところからクッキーを焼いて持っていったら、少し驚いたような顔をしたけど、でも受け取って食べてくれた。「おいしいアル…」って小さくつぶやいたのが聞こえてスゲェうれしかった。ほっぺたの食べカスを取ってやってパクッてしようと思ったけど、伸ばした手を高速の手刀で落とされてそれは叶わなかった。次は俺の得意料理の宇治銀時丼を食べてもらおう』
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『なァ、神楽ちゃん。何回でも言うけど、俺、アンタのコト好きだわ。』
『…知ってるヨ。何回も言われたからナ。ついでに他にも訳の分かんないこともいろいろと。』
『訳分かんないってヒドくね?アレでも一生懸命だったのよ、俺。…まあ、でも今までいろいろ作戦考えてきたけど、もうアンタを振り向かせる良い方法が他に浮かばねェや。』
『…じゃあ、もう諦めるアルか?』
『いいや?諦めるつもりは毛頭ねェよ。だからこれからも自分の気持ちを伝えるだけだ。好きだ、ってな。』
『!』
『俺、こう見えて一途なんで。』
『…お前には負けたネ。』
『え?』
『まったく…お前のしつこさはそのクルクルの天パと良い勝負アル。』
『それって喜べばいいの?悲しめばいいの?っていうか、え?つまりどーいうコト…』
『だから…』
バクッ
愛犬の口の中で痛い痛いと叫びもがく少年の姿を見ながら、神楽はじわじわといつの間にか火照ってしまった両頬に手をやった。
突然年下の男から告白されその後も妙なアタックを繰り返されてきたこの数ヶ月、神楽は自分の心境の変化に戸惑いを隠せなかった。
どれだけ冷たくスパッと振ろうが、次に会った時にはまた同じようにーーーやり方は少々というかかなり変なものばかりだったがーーー全力の想いをこちらにぶつけてくる。
そんなおかしな少年に気づけば絆されてしまっていた。
『俺、アンタのコト必ず振り向かせてみせるんで。』
覚悟しといてよ、と不敵な笑みで宣戦布告した少年に負かされてしまった。
「…ほんと、変なヤツ。」
そう呟く神楽の口元は楽しげに弧を描いていた。
「ねえ!ちょっと神楽ちゃん!?まずはこっから助けてくんない!!?」
end.