memorial
□パラレル銀神BOX
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*未来3Z銀神
【Make a Wish】
「誕生日おめでとう、銀ちゃん!」
テーブルに並べられた数々の料理とロウソクが刺さった手作りのケーキ。
この年になれば、誕生日なんてただ一つ年をとるだけの日にすぎなかったけれど。
自分が生まれてきたことに感謝して祝ってくれる人がいる、それだけでこんなにも特別な日になるのだと改めて思わされた。
「…あんがとな、神楽。」
柄にもなく少し涙ぐんでしまったのは年のせいして、それを誤魔化すようにメガネをかけ直してはみたけれど、きっと彼女には気づかれているのだろう。
「銀ちゃんの好物ばっかりアルヨ。今回はちゃんと味見もしたし、美味しくて感動して泣いちゃうかもよ?」
ニヤリと笑うその顔にやっぱりバレてたかと苦笑して、そうだなと相づちを打つ。
「ってか、味見は毎回しろよ。」
付き合い始めの時、神楽が俺の分の弁当を作ってきてくれたことがあった。
ほぼ私室と化した国語準備室で、少し古いソファーに並んで座って食べた弁当は、塩っ辛い卵焼きやら少し焦げたタコ様ウインナーやら茹ですぎて柔らかくなったブロッコリーやら決して最高の出来とは言えなかったが、それでも俺の為に早起きして一生懸命作ってくれたそれは最高に美味かった。
今でこそ料理も手慣れてきたようだが、たまに砂糖と塩を間違えたり、焦がしてダークマターを生成したりと不意打ちでこちらを驚かせてくれるのもご愛嬌だ。
「…だって、味見して美味しかったらついつい全部食べちゃいそうになるネ…」
そういや前にそんなこともあったかと思い出すのは今年のバレンタイン。
『手作りのチョコケーキ作ってくるから楽しみに待ってるヨロシ!』
腰に手を当て何故か得意げにそう宣言されたので、その通り楽しみに自宅で待っていると。
『味見したらあまりに美味しくて全部食べちゃったアル…』
夜の八時頃、口の端にチョコクリームをつけたまましょげ返った神楽がやって来た。
『せっかく失敗せずに美味しく綺麗に出来たのに…』
あの時の落ち込む神楽はすごく可愛かったし、ほんのりチョコの匂いをさせていて美味かった。
「銀ちゃん、何ニヤニヤしてるネ?」
「んー、別に?」
「…?まぁ、いいネ。ホラ、今からロウソクに火ィつけるから願い事考えとくアル。」
この方が雰囲気が出ると室内の明かりを消して、鼻歌でハッピーバースデーを歌いながらライターで普通のものより少し長めのロウソクに火をつけていく。
「はっぴばーすでー でぃあ 銀ちゃ〜ん♪」
そして、三本全てに火が灯された。
願い事の準備はいいかと神楽が目で合図する。
それに頷いて、一度目を閉じた。
願う事なんてたった一つしかない。
『これからもずっと神楽と共に。』
「はっぴばーすでー とぅーゆー♪」
軽く息を吸い込んで、ユラユラと揺れるロウソクの火を一気に吹き消した。
「おめでとう、銀ちゃん!願い事はちゃんとしたアルか?」
再び明かりがつけられ、明るくなった視界に映る満面の笑み。
「ああ。」
「何をお願いしたアルか?」
「…ナイショ。」
「え〜、銀ちゃんのケチ!」
「それより早くコレ食いたいんだけど。」
膨れる頬を指で突きながらどれも美味そうだと言えば、途端に嬉しそうに、だが少し照れたように微笑むのが堪らなく愛しい。
「感動して泣いちゃうアルヨ?」
「ハハッ、上等。そしたら銀さんもきっちり神楽ちゃんを鳴かしてやんねェとな?」
もちろん布団の中で、と付け足すと真っ赤になった神楽にグーパンを喰らってしまったけれど。
これはたぶん幸せの痛みってやつだ。
腫れた頬を撫でながら、俺は差し出されたケーキのフォークに齧りついた。
end.