memorial

□パラレル銀神BOX
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*猫銀時(擬人化)×OL神楽


【猫、拾いました。】



朝、目を開けたら見知らぬ天パが隣で寝ていた。

「ん…」

普通ならここでまず一体どういうことだとパニックになったりするんだろうけど、寝起きで寝ぼけた私は驚くことも叫ぶこともせずに目の前の白いフワフワに手を伸ばしていた。

「…ミャア」

低い声が耳を擽る。

ああ、そうか。
コイツは昨日拾った猫だ。

未だ覚醒していない頭でボンヤリそんなことを考えて、私はもう一度夢の中へと旅立った。



ーーーそして、数時間後。


「…っお前、誰アルかァァァ!!」

「ちょ、ちょっ、待て!とりあえず落ち着…グハァッ!!?」

ようやく正しい反応が出来た私は、目の前の素っ裸の白髪天パに豪速球で枕を投げつけていた。

よし、ストライク!…じゃなくて。

一体この状況は何なんだ。

まさか酔って見知らぬ男をお持ち帰りしてしまったのか。
もしかしてと一瞬考えて青ざめたけど、しっかりと留められたパジャマのボタンとお腹を冷やしてしまわないようにとズボンにしっかりとインした裾を見下ろしてホッとした。

そもそも昨日は会社帰りにどこにも寄っていないのを思い出す。

じゃあ、今私の目の前で股間を晒してぶっ倒れているこの男は一体何者なのだろう。

「何者なのだろう…じゃねェよ!殺す気かコノヤロー!!」

意外にも早く復活した男が悪態をつきながら起き上がった。

「ったく、どんだけ馬鹿力なんだよ…!オレァ、人間じゃなくてゴリラに拾われちまったのか?」

全く状況は分からないけれど、腹が立ったのでとりあえず今度は目覚まし時計に手を伸ばした。

「あっ、ウソウソ!ゴリラな訳ないじゃん!!お姉さんみたいな綺麗な人がさァ!」

男は必死に枕で股間を隠しながら美人だの優しそうだのと言って取り繕っているけれど何とも嘘くさい。

それにヤツの股間を隠しているのは私のお気に入りのウサちゃん枕だ。
…アレ、低反発で高かったのに。

死んだ魚のような目をしているのも何だか怪しい薬とかやってるんじゃないかって疑ってしまう。

ここはもう手っ取り早く警察を呼んだ方がいいかと男に警戒しつつ携帯を目で探していると、それに気づいた男が途端に悲しそうな顔をして弱々しい声で追い出さないでくれと頭を下げた。

「オレ、行くとこねェんだ…」

「あ…」

シュンと項垂れる白い髪の中に隠れていたソレに、私はようやく気づいた。

人間のものじゃないのは明らかだ。

「その、耳……じゃあ、やっぱりお前は昨日の…!」

そうして思い出すのは、昨日会社帰りにアパートの階段下に蹲っていたびしょ濡れの白い猫を見つけたこと。

ついさっきまでアレは夢だったんだと思っていたけれど。

部屋に連れ帰って、風呂に入れてやり、風呂上がりには自分はビールを、白猫は冷蔵庫に入っていたイチゴ牛乳を何故かものすごく欲しがったのでそれを飲ませてやった。

それから遅めの夕飯を一緒に食べて、昨日は残業のせいもあってクタクタだったからベッドに横になるとすぐに眠ってしまった。

そうだ、全部思い出した。

私は昨日、猫を拾った。

だけど。

「…お前、ほんとに昨日の猫アルか…?」

「ああ。信じらんねェかもしんねェけど…」

耳は確かに本物っぽくて私の様子を窺っているのかピクピクと小さく動いている。

下半身をあまり見ないようにしていたから今まで気づかなかったけれど、尻尾もちゃんと生えているようで、長くて白いフサフサが腰の辺りで揺れているのが見えた。

「…耳、触ってもいい?」

「ああ。」

恐る恐る近づいてそっと触れてみたら、白いフワフワの髪に埋もれた耳は暖かくて作り物なんかじゃないのがよく分かった。

「かぐら…」

「何で、私の名前…」

「お前が教えてくれたんだろ。」

「!」



『やっぱり洗って綺麗にしたら真っ白になったネ!それにお前ごっさフワフワアル!』

『ニャア』

『お前、名前は?って、猫に聞いても分かる訳ないか。首輪も付けてなかったし…』

『ニャウ』

『やっぱり白いからシロ?う〜ん、でも白っていうより銀色のような気もするし………よし、決めた!お前は今日から"銀"アル!』

『ニャ!』

『お!気に入ったアルか?』

『ミャウ!』

『私は神楽っていうアル。これからよろしくナ、銀ちゃん!』

『ニャア!』



「…銀ちゃん…」

「!」

名前を呼ぶと、さっきまでの死んだ魚のような目にパッと光が灯った。

嬉しそうにピコピコと猫耳を動かしているのはどう見ても成人の男で、オマケに今はすっぽんぽんで正座しながら股間を枕で隠しているようなマヌケな状態だ。

というか、何も知らない人がこの状況を見れば、私は裸の男を正座させて変態プレイに勤しむ女王様に見えるかもしれない。

それなのに。

そんな男の様子が馬鹿っぽくて可愛いと思ってしまったのだから、きっともう手遅れなのだろう。

「ハァ、仕方ないアルナ…」

「!」

自分でもとんでもないことをしてるって分かっているけど。

「一度飼うって決めた以上は最後まで責任持たないといけないし。」

「じゃあ…!」

「あらためて、私は神楽アル。これからよろしくナ、銀ちゃん!」

「神楽!」

目線を合わせるようにしゃがんで右手を差し出すと、握手を知らない猫はその喜びを全身で表現しようと勢いよく飛びついてきた……そう、すっぽんぽんのままで。


「ギャアァァァ!!」

「ウオォォォ!?」


土曜日の朝、私の悲鳴と背負い投げで吹っ飛ばされた銀ちゃんの声が休日の静けさを破った。

ご近所や大家さんから苦情が来たのは言うまでもない。


何はともあれ、こうして私達一人と一匹?の賑やかな毎日が始まったのだった。



『ああっ!銀ちゃん、私の酢昆布食べたダロ!!』

『しょうがねェじゃん、腹減ってたんだから。でもお前、よくあんな酸っぱいの食べてられるな。』

『アアン?酸昆布を馬鹿にすると許さないアル!お前なんて捨ててやるネ、このアホ猫!』

『え、それは困る。拾ったんなら最後まで責任持って飼ってくれよ。なァ、ご主人様?』




end.
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