memorial
□幸福の在り処
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『今まで…お世話に、なりました…!』
今にも泣き出しそうに声を震わせながら、朱色のおだんご頭は深く頭を下げた。
『――幸せになれよ…』
そう言って最後にはとうとう泣いてしまった少女を送り出したのが、まるでつい昨日のことのようだ。
「時間が経つのは早ェな…」
雲一つない空を仰ぎ見ながら、その男――坂田銀時は感慨深げに呟いた。
今ではもう少女とは呼ぶには大人になりすぎていたが、彼にとってはいつまで経っても大切な可愛い娘であることに違いはなかった。
いつも自分に向けてくれていたとびきりの笑顔が、これからは他の男にも向けられるのか。
そう考えるとどうしようもなく腸が煮えくり返って、相手の男に幼稚な態度を取ってしまったことも度々あったが、その度に新八や神楽に宥められていたのも今では良い笑い話だ。
『大好きアル!』
『ああ、俺もだよ。』
何度そう言葉を交わしただろうか。
小さなおだんご頭を優しく撫でてやる度に、大きな目を細めて嬉しそうに笑う顔が、銀時は何より愛おしかった。
「アイツが母ちゃん、か…」
呟いた声がいやに大きく響いて、それがまた少し銀時に寂しさを感じさせる。
「つーか、俺がじーちゃんになんのか…?ハハッ、何か信じらんねェな…」
遠くを見つめるその目に映るのは、過去の記憶。
小さな小さな赤ん坊の銀楽。
初めて腕に抱いた時のあの重みは今でもしっかりと覚えている。
「俺がじーちゃんか…」
銀時はもう一度確かめるように、そして自分に言い聞かせるように小さく呟いて目を閉じた。
「あっ、銀さん!こんなとこにいたんですか、探しましたよ!」
不意に屋上の扉が開き、馴染みの眼鏡の男が顔を出した。
「あ?……何だ、新八か。」
先ほど思い浮かべた過去の姿よりもだいぶ年を重ねた新八の姿に、銀時には一瞬あの日の彼がだぶって見えた。
「何だはないでしょ!もうそろそろ生まれそうだからって教えに来たのに!ホラ、神楽ちゃんも待ってますよ!」
「…おう、今行く。」
新八の呼びかけにそう静かに答えると、銀時はゆっくりと屋上を後にした。