memorial
□触れた手から伝えて
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大勢の人でごった返す店内を必死に歩き回って探すが中々見つからない。
朱色の頭と淡いピンクのコートを目印に探していたけれど、そもそも背が低い神楽はこの人混みの中で埋もれてしまい、探し出すのはかなり骨が折れた。
「だって銀ちゃんまずは1階の店に行くって言ってたアルヨ?」
「イヤ、2階っつったじゃねェか。聞き間違えたんだろお前。つーか、1階は食品売り場だから関係ねェし。」
まだ買い出しを始めたばかりなのに、どっと疲れた気がする。
「…今度ははぐれんじゃねェぞ。お前小っせェから見つけにくいんだよ。」
次の店へと向かいながら、ちゃんと神楽が後ろについてきてるか確認するのに振り向くと、そこには不満そうに頬を膨らませた顔があった。
「…だって銀ちゃん歩くの早いし、こんなに人いっぱいいたらすぐに見失ってしまうネ。」
「じゃあどうすりゃ…」
「手繋いでヨ。」
「え…」
「そしたらはぐれないアル。」
それは、あわよくばと期待していたような大チャンス。
しかし、銀時はその不意打ちの言葉に焦ってしまった。
「イッ、イヤ、でも俺荷物持ってるし…今度はちゃんとついてこれるようにゆっくり歩くからよ…」
口にしてすぐ、銀時は自分のヘタレ加減を呪いたくなった。
しかし、言ってしまったものは取り消すことは出来ず。
「…わかったネ。」
心なしか返ってきた声が沈んでいたような気がした。
そして、今現在。
銀時は神楽と再びはぐれてしまった。
あの時手を繋いでさえいれば。
そうすればはぐれる事もなかったし、この悴んでしまった手だって、小さな手と合わさって暖かくなっていただろうに。
何より自惚れかもしれないが、あの後の神楽の様子が元気がなかったように思えて仕方がない。
後悔ばかりが募っていく。
「神楽…」
そう小さく呟いた時だった。
不意に誰かが銀時のジャケットの裾を引っ張った。
慌てて振り向くと、そこにはやっぱり鼻を真っ赤にして息を弾ませている神楽がいた。
「良かった…!やっと見つけたアル…!」
白い息を吐き出しながらそう言うと、神楽は嬉しそうに笑った。
「…神楽」
「ん?」
「こっちの荷物軽いからお前持って。」
「ウン、わかったアル。」
「ああ、持つのはこっちじゃなくてそっちの手でな。」
「……ウン?」
銀時の意図がわからず、神楽は不思議そうに首を傾げる。
「…んで、こっちの手はこうすりゃいいだろ。」
そう言って銀時は神楽の空いた方の手を取ってそっと握りしめた。
「…もうはぐれんのはゴメンだからな。」
「銀ちゃん…」
そっぽを向いて話すその耳は赤く染まっている。
それを見た神楽は、小さく笑って銀時の手を握り返した。
「じゃあ、しっかり繋いどくアル。」
「…おう。」
冷えた指先からゆっくりじんわりと熱が広がっていくのをお互い感じながら、二人はいつの間にか降り始めた雪の中を歩き出した。
end.