memorial

□君が綺麗に笑うから
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「ねえ、この子は私と銀ちゃんのどっちに似ると思うアルか?」

そう言って神楽はだいぶ大きくなった腹を愛おしげに撫でた。

その小さな手に自分のそれを重ねて包み込む。

「さあな…俺は別にどっちでも構わねェが、お前に似て大食いなのだけは勘弁だな。」

「それは銀ちゃんに甲斐性があれば問題はないネ。」

「…うるせェよ。」

茶化すように笑う神楽の額を小突くと、お互いに目を合わせて小さく笑った。

ふとした瞬間に幸せを感じる。

こんな風に日々の幸せを噛み締める日が来るなんて、昔の自分は想像すらしていなかった。

想像出来なかったと言った方が正しいかもしれない。

神楽と出会って、こうして夫婦になって、そして。

「「あ、動いた。」」

神楽の手の温もりと共に伝わる小さな命の証。

思わず泣きそうになる。

「…銀楽はきっと、銀ちゃんに似たやんちゃな男の子になるアルナ。」

そう呟く神楽の顔は、もう立派な一人の母親のそれだった。

子供の名前がすでに銀楽に決定しているのに関しては、俺はもう何も言わないことにしている。

根負けしたと言ってもいい。

神楽曰く、どうしてもこの名前は譲れないらしい。

『だって、この子は二人の…銀ちゃんと私の子アルヨ?』

そう言ってあんまり綺麗に笑うから。

『…………。』

『ん、どうしたアルか?』

『…何、でもねェ…』

一瞬見とれてボーッとしてしまった、なんて。

そんな事恥ずかしくて口が裂けても言えなかったのは、まだ記憶に新しい。

「…やんちゃっつーんならオメェにも似てんだろうが。つーか、まだ男かどうかもわかんねェだろ?」

「ううん、絶対男の子アル!コレ母親の勘ネ!」

「どっからそんな自信が湧いてくるんだか…」

男でも女でもどっちでもいい。

無事に生まれてきてくれるのなら。

「…ねえ、銀ちゃん?」

「うん?」

「私、今すごく幸せネ。」

「…ああ。」

「でもネ…」

俺の手に小さなもう片方の手がそっと重ねられる。

「これからは私達三人、今よりもっともっと幸せになろうネ。」

そう言ってまた腹に目を落として微笑んだ顔はやっぱりあの日と同じで。

「……ああ、そうだな。」

返事をしながら、やっぱりまた見とれてしまっていた自分に気づいて、俺は小さく笑った。

それに応えるかのように、銀楽がまた動いた。




end.
 

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