memorial
□Will you marry me?
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「……銀ちゃん。」
いつの間にか抵抗をやめて大人しくなっていた神楽が、腕の中で消え入りそうな小さな声で俺の名を呼んだ。
その顔が赤く染まっていることに気づいて、ようやく少しだけ腕の力を緩める。
顔を覗き込んで視線を合わせれば、神楽は躊躇いがちに口を開いた。
「神楽?」
「……いい、アルか?」
「え?」
「昨日の言葉…私、本気にしても…いいの?」
泣きそうなその表情に、ああ、と嘆息する。
俺はバカだ。
こんなにも神楽を不安にさせていた事に気づかなかったなんて。
神楽はずっと俺を待っていてくれたのに。
「…か、ぐら…」
こんな時ですら中々上手く声に出せなくて、そんな自分のふがいなさに呆れてしまうけれど。
神楽の肩口に顔を埋めながらも、今度は勢いなんかじゃない自分の意志ではっきりと伝えた。
「神楽、俺と結婚して。」
「…ウン。」
少しくぐもった声音は、だけどもしっかりと俺の耳に届いて、何だか泣きそうになった。
そのまま離れ難くてしばらく抱き合ってたが、少しして神楽が居心地悪そうに身を捩って、腕の中から抜け出そうとし始めた。
その腕を追いかけて、また捕まえて。
そうして、もう一度腕の中に閉じ込める。
「あの…銀ちゃん、そろそろ離して…」
慌てた様子が何だか可愛い。
「もちろん離さねェよ。」
「でっ、でも、ここ玄関だし…銀ちゃん裸足だし、それに定春が…」
「あー、そういや…」
ようやくそこで定春の存在を思い出して2人で辺りを見回すも、すでにその姿はなく。
空気が読めるなんて、さすがは万事屋の一員だと少し感心。
それでもまだ、神楽は往生際悪く真っ赤な顔でどうにか抜け出そうとしている。
そんな様子に苦笑しつつも、こっちは離す気なんかこれっぽっちもないので、宥めるようにサラリとした前髪を掻き上げて額に口付ければ。
途端にピタリと動きが止まって、ようやく観念したかのように俺の胸に凭れかかってきた。
少しだけ宙をさまよった手はぎこちなく着流しを掴んで。
それを合図にその小さな体を抱きかかえると、今度は神楽の方から唇を寄せてきた。
(…あー、今日はもう万事屋は臨時休業にすっか、ウン。ってコトだから新八、お前も定春を見習って空気読めよ。)
なんて、今はまだ寝ているだろうもう一人の万事屋の従業員に内心で臨時休業を告げて。
ゆっくりと近づいてくる唇を受け入れた。
少し拗ねたように尖らせた唇は、触れる直前に緩く弧を描いていた。
end.