memorial
□Will you marry me?
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「俺と結婚して。」
そんな一世一代とも言える告白は、酒の勢いでいとも簡単に口をついて出てしまった。
その瞬間に一気に酔いが醒めて、しまったと思った時にはもう遅かった。
目の前の2つの青い目は驚きに見開かれていた。
だけど、驚いてるのは自分も同じで。
ずっと言いたくて、でも言えなかった言葉。
それがこんなにもあっさりと口から出てくるとは思いもしなかったから。
こんなハズじゃなかったのに、なんて悔やんでも今さら取り消すことはできなくて。
こうなったらもう覚悟を決めるしかない。
固まってしまった神楽に向かいあって、その両肩を掴もうとした。
だけどその前に、神楽は俺の腕からスルリと身を躱した。
「かぐ…」
「…銀ちゃん、今日はだいぶ酔ってるみたいアル。早く寝た方がいいネ。」
そう静かに話す神楽の表情は、何を考えているのか読めない。
「イヤ、俺は…」
「私ももう寝るアル…おやすみ、銀ちゃん。」
神楽は俺の言葉を遮るように視線を逸らすと、そのまま背を向けて居間を出ていった。
押し入れの閉まる微かな音を聞いて、ようやくそれまでの重苦しい沈黙を破るように息を吐き出しその場に座り込む。
頭はイヤというくらいはっきりしているのに、酔いが回った体はやっぱり思うように動いてはくれない。
それとも緊張が解けて体の力が一気に抜けたからなのか。
どちらにしても、しばらくは立ち上がるどころか体を動かすのも億劫で、そのまま体を後ろに倒して床に寝転んだ。
アルコールで火照った体に、ひんやりとした床板が心地よい。
目を閉じてさっきの事を思い返す。
きっかけは酒の勢いだったが、あの言葉は間違いなく自分の本心だった。
いつか伝えるつもりだった言葉。
ずっと俺のそばにいてほしい。
それだけは今までも、そしてこれからも変わることのない気持ちで。
だからこそ神楽のあの表情が気になってしまう。
俺の言葉をどう捉えたのだろうか。
単にただの酔っぱらいの戯れ言と思ったのか、それとも。
とにかく、このままにしておく訳にはいかない事だけは確かで。
だが、同じセリフを面と向かってもう一度、しかも素面で言うとなればどうにも躊躇ってしまう。
「どうすっかな…」
呟いた言葉は夜の静寂に溶けて消えた。