memorial
□PRESENT
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「…今日が何の日か知ってるか?」
鏡越しに向けた視線の先。
そこに映っている憮然とした表情に、神楽は内心で苦笑した。
小さな子供みたいに口を尖らせて拗ねている金髪は、この歌舞伎町のナンバーワンホスト。
「何の日って…クリスマスイブ?」
不機嫌の理由に気づいていないフリをして、小首をかしげて振り向く。
「だよな?じゃあ、クリスマスイブってどんな日か知ってっか?」
「…どんな日アルか?」
「知らねェのかっ!?イブっつったらお前、世の恋人たちが甘〜い夜を過ごす日に決まってんだろーが!!」
なのに何でそんな日に仕事なんか行くんだよ!?
口には出していないが、全身から発する不機嫌なオーラがそう物語っている。
朝から金時の機嫌が悪いことには気づいていたけれど(そもそも本人がそれを隠そうともしていなかった為だが)、神楽は敢えて何も聞かずに放置しておいた。
どうしようもないと分かっていたから。
「…仕方ないダロ。私だって好きで仕事に行くわけじゃないアル。それに金ちゃんだって夜は店あるネ。」
「…………。」
ホストクラブにとってクリスマスはバレンタインに並ぶ書き入れ時で、そんな日に店を休みになんて到底考えられない。
ましてや金時はナンバーワンホスト。
仮に神楽が今から仕事をキャンセルできたとしても、金時はそう簡単にはいかない。
それは金時自身もよく分かっている。
だからと言って、「仕事だからしょうがない」なんて簡単に割りきってしまいたくはないのが本音だ。
再び拗ねたように口を尖らせて黙り込んでしまった金時に、神楽は困ったような笑みを浮かべながら柔らかい金髪に手を伸ばした。
「…ほんとは私だってクリスマスは金ちゃんと2人で過ごしたいネ。」
豪華な食事やプレゼントなんてなくても、ただ一緒にいられるだけ良いのに。
「でも、金ちゃんは店のナンバーワンだし、独り占めできないのは分かってるアル。」
「俺はしてもらっても全然構わねェんだけど…ってか、むしろして欲しいんだけど?」
フワフワの髪を優しく撫でられ、金時は気持ちよさそうに目を細めた。
「仕事はちゃんと行かなきゃダメアル。それに今日はイブだから、いっぱいお客サンタが店に来てプレゼントくれるヨ。」
きっと金時達ホストの前には、本物のサンタもビックリするほどの高級なプレゼントが山のように積み上げられるのだろう。
「…なぁ、チャイナドレスのサンタさんは俺にプレゼントくれねェの?」
子供みたいに期待に目をキラキラさせて見つめてくる金時に、神楽は苦笑しながら答えた。
「…それじゃあ、良い子の金ちゃんに神楽サンタがチューしてやるネ。」
そうして金時の唇に自分の唇を重ねた。
「じゃ、行ってくるネ。」
まだ少し物足りなさそうな表情をしていた金時にもう一度苦笑しつつ、神楽はそのまま部屋を出て仕事へと向かった。