memorial

□この限りない想いを
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それは、ほんの数時間前。

日付が変わる少し前に俺の所にやって来たのは、何故か緊張した面持ちの神楽で。

襖を開けたまま部屋の入口で微動だにしないその様子に、一体どうしたのかと屈んで顔を覗き込もうとした瞬間。

震える小さな手に両頬を包まれたかと思うと、唇に柔らかい感触がした。

ちゅ、と可愛らしい音と共に、すぐにそれは離れてしまったけれど。

思わず無意識に淡く色付いた唇を目で追うと、そこにはそれ以上に真っ赤に染まった顔があった。

「か、ぐ…」

突然の事に驚いている俺に、神楽はよほど恥ずかしかったのか、勢いよく抱きついてきて。

そうして、少しくぐもった声で。

「誕生日おめでとう、銀ちゃん。それから…生まれてきてくれてアリガト。」

「…………。」

表情は隠れていて見えなかったが、耳や首筋まで赤くなっている神楽が可愛くて。

目の前の存在が愛おしくて堪らなくて。

もう「我慢」とか「遠慮」なんて言葉は、一切頭の中に浮かんでこなかった。

触れて、キスして、抱きしめて。

何度も何度も、その想いを耳元で繰り返し囁いた。

 

「あー…ほんと、どうやったら伝わんだろなァ…」

想いが通じ合ってなお、もっと自分の気持ちを知ってほしい、全てを分かってほしい、なんて。

これは我が儘なんだろうか。

「…もうとっくに伝わってるネ。」

不意に、さっきまで真っ赤になって固まっていた神楽が口を開いた。

「…銀ちゃんが私にメロメロなのは十分過ぎるくらい分かってるアル。」

そう続けた神楽の顔は、やっぱりさっきと同じくらい赤くなっていて。

「でも…」

「?」

「私の方がもっとずっと銀ちゃんのコト好きアル。」

言葉と共に再び神楽から重ねられた唇に、俺の思考は一瞬完全にストップしてしまった。

…本当にもう、どうしてくれようか。

神楽からキスしてくれるなんて(しかも同じ日に2回も)珍しくて、それだけでも十分ヤバイというのに。

その上さらに、とんでもない事を言ってくれた。

しかも当の本人は、まだ少し顔が赤いものの、当然だと言わんばかりの表情だ。

「あー…ヤベ、俺今スッゲー幸せかも…」

正常に動き始めた頭に浮かぶ考えは、ただ一つ。

「…ウン、やっぱこれで何もしないなんて男がすたるってモンだよなァ?」

「…え?えっと…ぎ、銀ちゃん…!?」

組み敷かれて戸惑う神楽に、煽ったのはお前なんだから、と心の中で言い訳して。

桜色の唇に口付けようとして、ふと気づく。

「あーでも、今日は俺の誕生日だから…」

そう、誕生日プレゼントは俺の腕の中。

「…なァ、もっかいお前からチューして?」




end.
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