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□天使の思惑。
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夕方、神楽が元気なく戻ってきた。
最近はメイクだけでなく、髪型もおろしたり1つに結んだり、とバリエーション豊かだ。
よく考えたらもううちに来て3年経つんだよなァ。
そりゃ変わっていくわな。
落ち込んでいる神楽をぼんやり見ながらオレがそんな思考に陥ってると、新八が神楽に声をかけた。
「神楽ちゃんどうしたの?」
「・・・」
「外で何かあったの?」
「あれだろ?酢昆布落としたんだろ?」
オレが今までの神楽で考えられそうなことを言うと、神楽は無言で首を横に振る。
なんか嫌な予感がする。
「じゃあどうした?銀さんに話してみ?」
「・・・よっちゃんに・・・」
「?よっちゃんがどうかしたのか?今さらいじめられるとかじゃないよな?ま、オマエの場合いじめられてもやりかえすだろうけど。」
「告白されたネ。」
神楽のその一言で新八とオレは思わず固まっちまった。
告白?
まさか神楽の口からそんな言葉を聞く日が来るとは。
「で?お前ェどうしたの?」
「断ったアル。」
おそるおそる聞いたオレに神楽が即答した。
断ったと聞いて少しホッとする。そうそう、ガキには恋愛なんてまだまだ早い。
「ていうか、なんでお前ェが落ち込んでるんだよ。振られたんじゃなくて振ったんだろ?」
「・・・」
「神楽ちゃん。申し訳ないって気持ちはあるかも知れないけど、こればっかりはどうしようもないよ。人の気持ちだもん。神楽ちゃんは何も悪くないよ。」
神楽が黙っているのを見かねて新八が神楽の気持ちを推し量って慰めるが、神楽はまた首を横に振った。
「・・・違うアル・・・」
「違う?何が?」
「申し訳ない、という気持ちはもちろんあるけど違うアル。」
「?じゃあ、なんで落ち込んでんの?」
「なんか自分をみているような感じがしたアル。」
「は?」
自分を見ているみたいって・・・
それって神楽が恋してるってことじゃねェか。
神楽が。
「おい、お前ェ・・・」
オレがそう言いかけると、聞くことなく神楽は何も言わずに押入れに入ってしまい、それっきり新八がいくら呼びかけても出てこなかった。
「神楽ちゃ〜ん。いい加減にご飯食べなさい。お腹空いているでしょ?」
新八が家に戻り、しょうがねェからオレが押入れに向かって声をかける。
「銀ちゃん。」
貝のように口を閉ざしていた神楽がやっと神楽がしゃべった。
どうせしゃべらないだろうなぁ、と半ば諦めていたからびっくりする。
「ん?どうした?」
「銀ちゃんは人を振ったことあるアルカ?」
「そうだな〜。そりゃあ銀さんもいい年だからね。今まで振ったり振られたりいろいろよ〜。」
「今は?」
「ん?」
「今も振ったり振られたりしてるアルカ?」
「今は神楽も知ってるとおりねェなァ。大体、銀さん一気に2児の父親になっちゃったからね。色恋沙汰なんざ最近はねェな。」
ククッと笑いながら答えると、しばらくしてボソッと神楽が呟いた。
「・・・誰もお父さんになってなんて頼んでないアル・・・」
確かに。
でも、この気持ちは紛れもない事実。
銀さん、お前ェが近い将来巣立っていくと思うとが正直つらいんだ。
そう思ってしまうのって、やっぱオレが父親になっちまったってことだろ?
「お前ェに頼まれてなくても、オレの気持ち的に、ってことだよ。」
神楽の言葉に答えると、それっきり神楽は呼び掛けても何も答えず、結局メシもたべなかった。
神楽も誰かに恋してんだな、と思うとやっぱりなんか面白くない。
いつまでも自分の手元にいるわけにはいかないのを思い知らされる。
夕方神楽の言葉でそれに気付いたときは結構柄になく動揺しちまったけど、しょうがねェっつうか。
今のうちにそろそろ覚悟しとかなきゃいけないんだろうな。