story

□さびしんぼ
1ページ/1ページ


「銀ちゃん…」

襖の向こう側から聞こえる遠慮がちな声。

ゆっくりと襖を開けて入ってきた少女に銀時は小さくため息をついた。

「神楽、ここには来るなって言っただろ…」

痛む喉に顔を顰めながら起き上がる。

熱を出して寝込んでからもう5日。

今年の風邪はしつこいとは聞いていたが、これほど長引くとは。

もう年なのかもしれない。

朦朧とした意識の中で銀時はふとそんなことを思った。

「銀ちゃん…」

ハッとして視線を上げると、神楽が心配そうに顔を覗き込んでいた。

「大丈夫アルか…?」

「…ああ、大したことねェよ。俺のことはいいからお前は…」

「嘘。」

「…何が?」

「大したことないなんて嘘アル。まだ熱下がってないんダロ。」

白い小さな手がそっと額に触れる。

その冷たさが心地よく、銀時は思わず目を閉じた。

「私、熱が下がるまで銀ちゃんに付いてるアル。」

「…バカ言うな、移ったらどうすんだ。」

心地よい手のひらの感触を少し名残惜しいと思いながらも、神楽の腕を掴んで額から手を外す。

「お前は新八んとこに…」

「いやアル。」

神楽は銀時の手を取り、両手できつく握りしめた。

「…いやアル。」

「神楽…」

「5日。」

「?」

「もう5日も我慢したネ。」

「………。」

拗ねたように唇を尖らせて俯く神楽に、銀時はそれ以上何も言えなくなってしまった。

何故なら気づいてしまったから。

これ程頑なに神楽がそばを離れようとしない理由が自分と同じなんだと。

たったの5日。

だけど。

寂しいと思った。

会いたいと思った。

触れたいと思った。

(…ああ、もう…)

銀時はお手上げだとばかりに息をついて神楽を抱き寄せた。 

「…銀ちゃん?」

「…まだ5日だろ。」

「もう5日アル。」

「…銀さんに会えなくて寂しかった?」

「…ウン。」

「何だよ、いつになく素直じゃねェか。」

「変、アルか…?」

「イヤ、スゲー可愛い。」

顔を覗き込むと途端に頬を染めて俯いてしまった神楽に、銀時は目を細めて朱色の髪に口付けた。

「ねェ、銀ちゃん。」

「ん?」

「やっぱり今日は万事屋にいちゃダメアルか?私、銀ちゃんのそばにいたいネ。」

「……風邪、移るかもしれねェぞ。」

もちろん、本当は銀時が心配してたのはそれだけではないのだが。

「その時は銀ちゃんが看病してくれるんダロ?」

首を傾げながらフワリと柔らかい笑みを浮かべる神楽に、銀時は照れたように一瞬視線を彷徨わせた。

「…わかったよ。今日はここにいていいから。」

「ウンッ!」

パアッと顔中に笑みを浮かべて、何の危機感もなしにギュウギュウと自分に抱きついてくる神楽の頭をぎこちなく撫でて。

「………。」

そうして、一瞬クラリと目眩がしたのは、熱のせいだけだと自分に無理矢理言い聞かせた。

(…うん、これは気のせいだ。決してムラッとしたとかそんなんじゃないから。)

だけども、これから訪れる長い長い夜を思うと、銀時は内心深いため息をつかずにはいられなかった。


(俺、理性持つかな…)




end.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ