※師アレ







「俺がこの世に生まれてきてやった事、盛大に祝え」

「は?」

















めでたくないっ!















バイトと筋トレでヘロヘロになって帰宅したのは、今日から明日へ日付が変わる1時間前だった。
真っ暗な部屋にもかかわらず、どうせ自分しかいないからと灯りを入れずに、薄汚れた髪や服もそのままに重い身体を床に横たえた。
せっかく今朝洗濯したシーツを汚したくはない。











「死んだか、馬鹿弟子」

低く空気を振るわせる知った声に、ぼんやりと思考が再開する。遥か頭上にある時計は、あと数分で今日が終わる事を知らせていた。
少々意識を飛ばしていたらしい。

「あ、れ、ししょ…なんで居るん、です?」

「居たら悪いか」

悪かないですけど、今日は、いや今日も愛人さんの所じゃなかったですか?
別にどうでもいいですけど。

「明日は31日だからな」

「へ?」

31日がどうしたのか、僕が発した間抜けな声と同時に、カチッと頭上の時計の長針と短針が12の上で重なった。


「31日だ」

「はぁ…そうですね」

「祝え」

「は?」

皺ひとつなかったまっさらなシーツに、師匠は無遠慮に座り盛大に皺を作った。
くそっ

「俺がこの世に生まれてきてやった事、盛大に祝え」

「は?」

「誕生日だ、」

俺の。

…………


あ…っ









「たんですか…師匠にも、誕生日…」

「…テメェ、俺を何だと思ってやがる」

そんなの、口が裂けても言えませんけど!

「だったら尚の事、愛人さんに祝ってもらえばよかったじゃないですか」

僕、何も用意してませんよ?
というか、何を用意していいかわからないし。
酒? 煙草? 女性?

そう言ったら容赦なく頭を殴られた。
なんで!

「女には不自由していない。おまえの小遣いで買える酒などたかが知れているし、煙草は後日買ってこい」

師匠へのプレゼントとなりえそうな候補は、ことごとく却下された。
ギブアップです、思い付かない。

「おまえは、12月25日、なにが欲しい」


急に自分の事を問われて驚く。
いきなり言われても、思い付きません。

「豪華な食事、…とか」

「ああ」

「デザートは、みたらしがいいな」

「そうか」

「クリスマスですから、ケーキもあるといいですよね」

「そうだな」

「………」

「………」

「………その日、だけは…」

えっと、その、あの、その、
できれば、

「し…しょう、と」

師匠と、一緒に食事したい。
師匠と、一緒に居たい。

できれば
傍に、居て 欲しい です。

…って、
ああっもうっ!顔が熱い!恥ずかしい!

黙ったままの師匠をチラリと一瞬盗み見ると、待ち構えていたように視線がぶつかって、瞬時に全身の産毛が逆立った。心臓もうるさい。うるさすぎて、こめかみが痛い。

「あー、…えっと、気に、しないでくだ」

「では、今年は俺もそれでいい」

かなり妥協してな。

「は?」

「そうだな、取り敢えず飯はまだいい」

俺は優しいから、ガキに豪華な食事など求めはしない。
お前の手作りで勘弁してやろう。
ああ、ちょうどさっきまで一緒だったご婦人にイイ酒をもらったんだ。
これに合う旨い肉が、食いてぇなぁ。


晩餐は、メインだ。だから、

「まずは余興、前菜だ」

視界が赤でいっぱいになって、次の瞬間には師匠の後ろに天井が見えた。

「ちょ…ちょっ、待って師匠」

思わず師匠の肩に両腕を突っぱねる。不機嫌そうに細められた目がこわかったが、このまま流されてはいけない。

「えっと、………ほ、ほら、僕こんなに汚れてますし!」

まずは取り敢えずお風呂かなぁ、なんて!

体制は変えず、師匠はじっとりと僕の身体を眺めるとおもむろに立ち上がり、ついでに僕の身体を荷物よろしく抱え上げた。

「わっ」

「風呂場でやるのも久しぶりだしな」

なんて物騒な事言うの!
僕の抗議の声なんて、師匠の黙れの一言で即座に打ち消される。

「ひ、ひとりで入れます!前菜なんか嫌です!」

「安心しろ馬鹿弟子」

締めのデザートも、あるからな。

えっ、そ、それって…どういう意味…?


サッと血の気が引いた僕をよそに、無慈悲にもバスルームの扉が嘲笑うかのように音を立てて閉まった。






おわれ。

師匠誕生日おめでとう御座います文でした。
ぐだぐだ万歳←



次ページにバジル誕生日おめでとう文有り。




 


御返事はブログ内で(^-^)



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