霧兎の書き物-君に会えた事-

□奏思双愛
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「さようなら」

その言葉を残して
彼女はいなくなった

失いはやはり
失ってから気付くものだ

彼女に理由すら聞けず
虚無感だけが
毎日俺を怖がらせてる
そして喪失感は
俺の感情を壊した

口は聞けても
感情が出せなくなってしまった俺は
心の何処かで
彼女を探していた

………

「海!!今は何の時間だね!!?」

「授業中です…すみません…」

大学の授業中は睡眠時間であると先輩から教わったんだが…
先輩は嘘つきだったらしい
まぁ、気にしない
怒りもしない

というか…
最近怒った記憶が無い

稲魅 海(いなみかい)
俺は三年前から感情が消えている
それと共に友人は激減
今は親友の益子 奈緒(ましこなお)だけが唯一の友人だ
女みたいな名前だが男である

休み時間

奈緒が話し掛けてきた

「お前何時も考え事してるよなぁ」

「だめか?」

「どうせ三年も前の事だろ?」

「あぁ…だめか?」

「別に良いけど…あんまり考え過ぎると口も聞けなくなるぞ?」

「大丈夫だ…おしゃべりの奈緒がいれば」

そういって俺は無機質に笑顔を作る
奈緒からしたら感情を戻す為のトレーニングらしいが…
効果は無い

「おしゃ…べ…う…まぁ許すとしよう」

「怒っても良いんだぞ?」

「感情の無いお前に怒っても痛い所突かれるだけだからいい…」

「そうか…」

そんな会話をして席に戻るとタイミング良く次の授業が始まる

今日はこの時間が終わったら帰りだから寝ていよう

帰り
商店街を歩いていると

「なぁ…お昼あそこで食わないか?」

奈緒が指差したのは
いつも俺達が通うカフェ

「ん…良いぞ…」

俺達はこじんまりとした入口から入る
お昼時だった為かほぼ満席だった

「あぁ…お前らかいらっしゃい」

マスターは待ってましたと言わんばかりに笑顔を向ける

「いつもの席は?」

奈緒は俺達の特等席をマスターに何時も予約してるらしい

「いつもの席はもちろん空いてるよ」

グッと親指を立ててウィンクをするマスター
ウィンクしたいのは良いが何時も両目をつぶってしまう
それに対して合言葉を返すように奈緒も同じ行動をする

「さすがマスター!!注文もいつものな!!」

「あぁ…出来たらすぐに持ってくさ」

優しい笑顔のマスターには俺も和んだりしている
奈緒によれば此処のカフェにいる時が一番感情表現してるらしい

また…別の意味がある場所なんだがな…

俺達は少し混雑気味の店内を抜けてテラス席に座る
一席しか無いテラスを何時も使わせてくれる
予約すら取ってない時も空けてあるんだから
5年も前から…
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