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□<カミナガ様より>呼び覚ます金木犀
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呼び覚ます金木犀

三剣様リクエスト
※泣くルッチ



パウリーは人懐っこい、親しみやすい、笑顔が最強である。
それ故にパウリーの周りにはたくさんの人がいて、仕事をしながらそれに応えたり、気軽に差し入れを受け取ったり、する。
分かっている。
パウリーは一人だけのものではない。ましてやルッチが束縛できるようなものでもない。恋人同士だからとか付き合いが長いからだとか色々理由をつけたとしても、パウリーの自由を奪うようなことはできない。


『傷心だッポー…』
「偉くご機嫌斜めだね」


ブルーノの店で浴びるように一人酒をしているルッチは非常に剣呑な雰囲気を醸し出していて、その周辺に居る赤の他人は相当びくつきながら脇をすり抜けていく。
ルッチは別に人懐っこくないし、親しみやすくもないし、笑顔なんてもっぱら人を殺した後くらいしか表に出さない。だからこうして避けられることが多いのは分かっているし、逆にパウリーと同じように接してこられてもどう対応すればいいのか分からないのでこの状況は悪くない。
しかしながら。
ルッチは近頃悩んでいた。それもかなり悩んでいた。偏頭痛が周期的に襲い掛かってくるところまできていた。それほどまでに、ルッチはパウリーがたまらなく愛おしく、独り占めしたいと夜な夜な月に手を合わせていたり変な宗教の神を奉ってみたりしている。それでもパウリーの人気はおさまるどころかどんどんその幅を増してゆくので、ルッチは怒涛のような勢いでパウリーを食事に誘ったり自宅に招いたり仕事を手伝ってやったりする。その時に見せる笑顔が見たい、それだけのことでルッチは身を粉にしている。そしてそのままの勢いであわよくば押し倒したいとかもっと恋人同士らしくしたいとか言おうとするが、その度に何かと都合が悪かったり先客が居たり(決して二股をかけられているという訳ではない。そこは諜報員の力を駆使して事細かに調べ上げた)して、ルッチは落胆、ブルーノの店に一人立ち去ることが日増しに多くなっていた。


『ルッチは惨めだッポー…』
「おや、またパウリーのことかい」
『なぜ分かった』


ブルーノはグラスをふきながらルッチのそばによって「ルッチにしては分かりやす過ぎるからな」と笑った。そこまでバレバレだったのかと思うと非常に不愉快だが、がやがやと繁盛する店内でルッチがパウリーを慕っていることを知っているのはごく一部の人間のみである。
そして、ルッチはこの妙な焦燥感をどうしたもんかと酒を飲みながら思考をめぐらしているさなかのことだった。
カランカランとドアが開く音がして、中にカクと、それから問題のパウリーが姿を現したのだ。
既に酒が入っているのか頬を赤くしたパウリーは「いよっ、ブルーノ!いつもので頼むぜ!」と言うや否やルッチの隣に位置するカウンターの席に座り、そこでやっと硬直状態にあったルッチに気が付いたのか「お、ルッチ!おまえも飲んでるな〜」とニコニコ笑いながら空のボトルを指ではじいた。
カクはパウリーの隣に座ってやっぱり笑いながら、「パウリー、今度こそ割り勘じゃからな」と寛容な態度で酒を頼む。ブルーノはいつも通り「あいよ」とオーダーを承知して、パウリーにはビールを、カクにはオリジナルカクテルを作り始める。
その間もパウリーはひどくご機嫌で、「カク、その帽子取ったら頭どうなってんだ?」とか「いつも山風とか呼ばれてるけどなんであんなに飛べるんだ?」とか、ルッチに背を向けるようにしてべらべら楽しそうに喋っている。
ピシ、という奇妙な音がしたのはその直後のことである。


『………』
「…え、あ、ちょ、お前グラス割ってる!ってか、え、ええ?!なんで泣いてんだお前?!」
『………っ』
「おおお落ち着けよルッチ、ど、どどどうしたんだよ一体?!なんか嫌なことあったのか?!親戚の訃報でも入ったのか?!」


慌てたパウリーは持っていた自分のグラスまで床に落として、ガシャンとガラスが割れる音とかガタガタとパウリーが席を立つ音とかパウリーの大きな声とかで周囲は一時騒然となった。ブルーノは今日だけでグラスが二つも粉砕されたことにため息をつき、カクは二人の動向を横目で見ながら呆れていた。
どうしたどうしたと慌てふためくパウリーを余所に、ルッチはぽろぽろと涙をテーブルの上に落とす。理由は分からない、いや、心当たりはあるがそれだけでこんなに涙が出るなんてありえない。ルッチ自身も涙しながらけっこう慌てていた。パウリーを困らせて、またおれは一歩、パウリーから距離を取られるのか、と思った。
ガシッという音と共にルッチの腕がパウリーに掴まれたのはそれからすぐのことである。
両腕を掴まれたことでパウリーと真正面に向き合うことになったルッチはやはりとめどなく涙していて、パウリーは焦りか困惑かで冷や汗をかいていた。


「…なんかおれ、悪いことしたか?」
『パウリーは人気者だッポー』
「んなことねェよ、女にならお前の方が人気だろうが」
『ルッチはパウリーが居ないと悲しい』
「………は?」


唖然としたパウリーに対して、周囲の人間は空気を読んだのか各々の話で盛り上がり、ブルーノはとりあえずバラバラになったガラスを排除するために箒とちりとりを取りに奥へ引っ込んで、カクは一人、誰もいないカウンターを眺めながら酒を飲んでいた。「全く、この鈍感バカップルが…」というつぶやきは奥から箒とちりとりを持って出てきたブルーノにしか聞こえていなくて、ブルーノはただ苦笑いしながらカウンターの外に出て、ルッチとパウリーの間に入らないように注意を払いながらジャッジャッと砕けたグラスを片付けていた。

ルッチはパウリーを独り占めしたい、けれどパウリーは人気者で、おれが居なくても楽しく過ごすことができる、その環境が妬ましくすらある。ルッチはパウリーを思う以上に想っている。だからパウリーにも想ってほしい。独り占めしてくれとは言わないが、それでも、ほんの少しでもいいからルッチを優先してほしい。ルッチはパウリーを愛している。本当に愛している。

パウリーが顔を真っ赤に染めて、「もう分かったから、それ以上口きくな…」と俯くまで、ルッチは涙を垂れ流しながら滔々と語った。


「話の続きは…今日、これから聞いてやるから…だからもう泣くな…」
『分かった』
「切り替え早ッ!」


という訳で申し訳ないんだけど、とカクを振り返ったパウリーに、カクは半笑いで「グラス代と酒代はルッチも含めて割り勘じゃからな」と言って、了解してくれた。
涙を拭きとったルッチが『じゃあ早速、』と言ってパウリーの腕を引っ張りずるずると自宅へ連行していく様を眺めながら、カクはぽつりと「ヘドが出るわい」とつぶやいた。掃除を終えたブルーノはそんなカクを労うように「おれも、全身が痒くなったよ」と言ったのだった。






おしまい


いや、あの…
素敵すぎて…ありがたすぎます…(涙
カミナガ様は私の敬愛する方で、その文才に私がどれほど萌えたぎったか…っ!!ルッチが…ルッチがかわいい…!そしてカクたそとブルーノさんが!パウリィィィ!(黙れ)私が書くとこの世の物とは思えないほどキモくなるルッチが…こんなに素敵になって里帰りするとは夢にも…!←
企画にリクエストしたことを本当によかったと思っています!!
カミナガ様、本当にありがとうございました!家宝にします!!
これからもストーkゲフンゲフン、応援し続けますので頑張ってください!!!


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