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□恋のUSBメモリー
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−男の恋は保存式。
−女の恋は上書き式。
そんなことをどこかの本で読んだことがある。
しかしながら、悔しいことにそれは見事に当たっているのだ。
「教官?」
ぼーっと、窓の外を眺めていると買い物から帰ってきたパスカルが不思議そうな顔でこちらを向いていた。
「あぁ、パスカルか」
どうした、と尋ねてみれば、別に〜、といつも通りの笑顔で答える。
「教官、何か悩み?」
「いや、ちょっと昔を思い出してな、」
「ふーん…」
教官も大変だね、なんて笑うパスカル。
同情されるよりは、彼女のように笑い飛ばしてくれた方がこちらとしてはずいぶんと楽なのだ。
「なぁ、」
「なーに?」
「パスカルは恋したことあるか?」
単刀直入に聞いてやると、とくに困ったそぶりも見せず、うーん、と考えはじめた。
「…パスカル」
「何?」
「思い出したくないのなら別にいいぞ」
自分から聞いたのになんて勝手なんだろう。
地雷を踏んでしまったか、なんて思ってそう言えば、彼女の口から出て来た言葉に俺は驚いた。
「いや、ぶっちゃけ覚えてないのよねぇ…」
「はっ?」
その答えに俺は思わずマヌケな声を出してしまう。
「だって、終わった事をいちいち覚えてらんないでしょ?」
あぁ、そういう事か。
たしかに女の恋は上書き式だな。
昔読んだ本に今更ながら納得する。
「教官?」
そんなことを思い出しながらクスリと笑ったオレにパスカルはまた不思議そうな視線を送る。
「いや、パスカルも女だな、と思って」
「へっ?」
あたしは女だよ?と言った彼女がおかしくて、ついつい吹き出してしまった。
そして、頭を撫でてやれば、くすぐったいというような顔をする。
「変な教官」
「パスカルに言われたくないな」
そう言って微笑んだ彼女に微笑み返してやれば、えへへ、と幸せに笑った。
忘れてはいけないことだろうが、オレもそろそろ上書き式に切り換えようか。
恋のUSBメモリー
(バックアップ機能は)
(ついてません。)
end.