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□指先からメッセージ
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携帯の送信ボタンって、こんなに重たかったかな?
そんな事を思いながら、僕は震える手で携帯を持っている。
『初詣に一緒に行きませんか?』
ただ、それだけ。
本当にそれだけの短いメール。
しかし、意中の相手に送るというだけで、こんなにも緊張するというのか。
兄さんやソフィに送る何気ないメールは簡単に送れるのに、シェリアが相手となるとどうしても固まってしまう。
部屋には時計の秒針だけが響く。
あぁ、もうすぐ紅白が始まるな、なんて頭の中で思いながら携帯に目を戻す。
「…はぁ、」
溜息をついて何度目かわからない文面チェック。
たったの一行。
それだけなのに、何故か重たい。
全校生徒の前で演説する方がよっぽど楽なのでは無いか、と思ってしまう自分は何なのだろうか。
「…おぃ、ヒューバートっ!!」
「ぎゃっ!!?」
…今変な声出たぞ、どうした、僕。
急に部屋に入って来た兄さん。
「ノ、ノックくらいして下さいよ!!」
「悪かったな」
はぁ、と溜息をついて僕は眼鏡のブリッジを押し上げた。
「で、用は何ですか?」
「あっ、蕎麦出来たぞ」
早く来いよな、とそれだけ言って兄さんは部屋を出て行った。
「まったく…」
嵐のような人とは兄さんの事を言うのでは、と思いつつ、僕は携帯を見る。
「…えっ、」
ディスプレイには"送信成功"の文字。
「……あぁぁぁーーーっ!!!」
あれだけ葛藤したのに、あんなに簡単に送信してしまうなんて。
しかも、変な声を上げてしまったと同時なんて。
「はぁ…、」
僕は今日1番大きい溜息をついて、携帯を閉じ、兄さんとソフィが待っている台所へ向かった。
携帯に"シェリア"という名前が表示されているのを僕は蕎麦を食べた後に知ることになるだろう。
指先からメッセージ
(待ち合わせは、)
(いつもの場所でいいわよね?)
end.