Titles of limitation in autumn

□◆落ち葉の先で
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***scene2・男二人***


 一歩、また一歩と踏み出すたびに落ち葉を踏みしめる。
ロックは黙々と茶色い落ち葉だけを選んでは踏み、選んでは踏み、前へ進む。サクッっと音を立てて崩れてゆく茶色の葉が少々痛々しい。
 その姿に痺れを切らしたエドガーが口を開いた。
「おい、やめてくれ。恥ずかしい」
30メートルほど前を歩くティナやセリスなら“かわいらしい”と言える行動も、三十路を前にした男にやられると無性に腹が立つ。
「は?なにが?」
ロックは俯いていた顔を上げると間抜けな声で聞き返す。
「落ち葉だよ。ワザと音がするのを選んで踏むな、耳障りだ」
理由が“恥ずかしい”から“耳障り”に変わったが、腹立たしいのは変わることは無い。
「あ。ああ。・・・ちっせぇなあ、王様」
「うるさい。俺が男と二人肩を並べて町を歩いていることを褒めろ」
「それなら俺も褒めやがれってんだ」
折角買出しをセリスと行ける事になったのに、当の彼女はティナとべったり。いや、ティナがべったり。
その反対側に自分が並べれば少しは気が治まったのかもしれないが、ティナとセリスの二人、エドガーとロックの二人で歩いているのが現状だ。
エドガーはロックを無視すると、落ち葉の先で楽しそうに歩く彼女達に目を細めた。
「セリス、円くなったな」
「は!?そう?前からあんなんだったぜ?・・・まぁ腰なんか折れそうだけど、他は、こう・・・ほら、」
ロックはセリスの肩から胸、腹、腰、太股に至る滑らかな身体の曲線を思い描くと、両手で形作った。
「・・・そのスケベ顔を今すぐやめろ・・・。あと、その手つき!怪しすぎだ。荷物落とすぞ」
想像したセリスのあられもない姿にだらしなく鼻の下を伸ばしていたロックは脇に挟んだ荷物を落としそうになり慌てると、
今度は落ち葉に足をとられて滑りそうになり慌てた。
その情けない姿にエドガーは小さな溜息を吐く。
「お前そうとうキてるな」
「・・・ほっとけ」
荷物を持ち直すと、年甲斐も無く不貞腐れる。
「彼女の円くなった理由はやっぱりお前、か・・・」
『悔しいけど』そう付け足そうと思ったエドガーだが、そこはあえて言わないでおく。
 セリスとは世界崩壊後に二人で旅をした仲である。その期間は長くは無いが決して短いものではなかった。
しかし、彼女があんなにも至福の笑みをこぼしたことが有ったであろうか。認めたく無いが、答えは否だ。
エドガーは一頻想いを巡らせる。
けれど、ロックはそんなエドガーを知ってか知らずかぶつぶつと話始めた。
「ひとの女を丸い丸い言うな。しかも俺のせいってなんだよ。あいつは前から変わってねえって。僻みか」
最後の一言にエドガーの形の良い眉がぴくりと動いた。
呆れた男だとエドガーは思う。
どうやら先程から“円い”と“丸い”を思い違えているロックを苛め抜くことを決意した。
「大体世界がひっくり返ってると言うのに、お前は幸せボケしすぎなんだ。少しは冷静になって回りを見てみろ」
餌を撒く。
「なんだそれ、どういう意味だよ」
まんまと喰い付く。
「そのままの意味」
少し離れたその先には、武器防具専門街を見向きもせず橋向こうのレストラン街を指差すティナにはしゃぐセリス。
(うん、かわいい・・・じゃなくって!)
「あいつらもう腹減ったのか」
「さあ。そういう時もあるんじゃないか。なんせ、女性の身体は神秘に満ちているからね」
「はあ?なんだよそれ。女がどういう神秘的な理由で過食に走・・・る?」
ロックはそこまで言って、途端に青ざめた。哀れなことに自分の勘違いとエドガーの撒いた罠にまんまと引っかかる。
「いやいやいやいや、俺ちゃんと気をつけてるし!!!・・・・・・一回目は」
わなわなと唇を震わせながら自分に言い聞かせるようにぶつぶつと呟き始めたロックに、
エドガーはそっくり返って大笑いをしたいのを必死に押さえ冷静な素振りを見せる。
「二回戦目以降は等閑か?」
「・・・・」
最早声も出ないロックに耐え切れず噴出しそうになるエドガーだが、
「あ、ほら、馬鹿でかい声出すからティナがこっちを見てるじゃないか。お前行ってこいよ」
「・・・え? あ、うん」
エドガーは振り返るティナとセリスににっこりと手を振ると、彼女達には見えないようにロックの背中を一思いにばしんと叩いたのだった。


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