FF6 SS

□◆マロニエ
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コーリンゲンの外れにある大きなマロニエの木下で少女は飽きることなくその実を拾い続けていた。
陽は東に傾き始め冷えた空気が耳に凍みて千切れ落ちそうなくらいだった。
けれども少女は、一つ、また一つとマロニエの実を拾っては自身のスカートの裾へと入れてゆく。

「見て!ほら、こんなにたくさん!」

鼻を真っ赤にしながら悴んだ両手で生地の厚いスカートの裾を持ち上げると、
端から可愛らしい茶色の実がころころと転がり落ち、慌てて拾いなおした。

その姿があまりにも、幼くて、可笑しくて、可愛らしいのでロックは声を上げて笑った。
一瞬不機嫌な顔をした少女は美しい紺色の髪を揺らして彼の元へ駆け寄った。

「はい、これ。半分持ってちょうだい」

そう言って山ほど集めたマロニエの実を半分ほど彼の膝の上へと押し付けると、ばらばらと四方へ転がりだし、
それを見て少女は笑った。

「おい、レイチェル!これどうやって持てってんだよッ」

彼の元から軽いステップで走り去り「さっき笑ったお返しよ」と言ってまた笑った。


ロックは彼女がするのと同じように自身の上着の裾を両手で持ち、そこにマロニエを入れて家まで歩いた。
手を繋ぎたいのに、繋げない。そんな状況の中、その溝を埋めるかのように沢山話をした。

陽はもう落ちていて、小さな村の街灯に火付け番の男がひとつひとつ火を灯すと、
二人の小さな影が二つ出来上がった。

「こんなに沢山、どうするんだ、全部食うのか?」
大量のマロニエをあきれた様子で見ると、ロックはレイチェルに問うた。
「うーん、どうしようかしら」
「おいおい、なにも考えてないの??」
「だって、今からじゃ、朝のパンには間に合わないでしょう?…ケーキでも作ろうかしら」
幸せそうに、ふふふと笑うレイチェルの横顔は、天使のように可愛らしい。
「レイチェルって、食べ物のこと考えてる時が一番幸せそうなのな、なんかガキみたい」

「あら、失礼しちゃうわ! 私、今月二十歳になるのよ」

ぷりぷりと怒りながら言うと、ロックはハッとした。
「あーあ、俺を置いて大人になっちまうのかぁ」
「いやだ、ロックったら。あなただってすぐじゃない」
「十九になるのがね」
「ねえ、その時になったらまた拾いに来ましょうよ。わたし、きっと美味しいケーキを焼くから」
「じゃあ、俺はお前にとっておきの贈り物をするとしますか」
「なに?」
「ひ・み・つ。まだ考え中だから」
「それって秘密っていわないわよ。でも、約束ね」

レイチェルとの大事な約束が毎日少しずつ増えることがロックは嬉しく思った。
こうして彼女と時を重ねて、大人になって、いつしか家庭を築くものだと思っていたのに。

その夢が叶うことも、約束が果たされることもなかった。
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