FF6 SS

□◆降りしきる雨は誰のため
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どんよりとした空が迫り、東の空に広がった雨雲が地上に流れ落ち天の恵みへとその姿を変えているさまが
遠く離れたこの地からもはっきりと見て取れた。
だが、今回ばかりは「天の恵み」と言うわけにもいかないであろう。
降っては止んでを繰り返す季節外れなその雨は土壌に染み込み根を腐らせる。

「そろそろこっちにも来るな」
うんざりだと呟いたロックにセリスは言葉を返すこともなくチョコボに揺られた。

南フィガロの洞窟を越えた二人はナルシェへと急いでいるのだが、天候に恵まれない。
加えてチョコボが一羽しか調達出来ず、手負いのセリスといくらかの荷物を運ぶことしか出来ないのだ。
流石のロックにも疲労の色が見え始めたころにやっとの思いで行き着いたのは
山の麓にある村、ノーヘンだった。

雨に降られながら村に入ると、まず小さな噴水が二人を迎えてくれた。
淵には三羽のガチョウと瓶を持った乙女の像があり、その瓶からゆるゆると流れ出るのは水ではなく温泉である。
噴水からは立ち込める湯気が冷たい空気に溶けてゆき、ほんの少しの硫黄の香りが鼻を掠めた。
チョコボを預けると、立ち並ぶ木組みの建物から宿を探し出し雪崩れ込んだ。

「俺、部屋取ってくるから、お前火に当たって待ってろ」
酒場を兼ねた宿は大勢の客で賑わっていたので、ロックは大きな声でセリスにそう伝えると、
さっさと人ごみの中へと消えてしまった。
セリスは水の滴る外套を脱ぎ捨てると、言われたとおりに暖炉に当たる事にした。
白く血色のない指先が見る見るうちに赤みを取り戻していくさまをどこか他人事のように見ていると、
突然声がかけられた。

「おい、ねぇちゃん!なぁにシケたツラしてやがんでぇ美人が台無しじゃあねぇか」
言い終わるや否や、声の主はセリスの肩に手を回すと自身の方へ引き寄せた。
体を触られ、酒臭い息が耳にかかっても、彼女は顔色ひとつ変えることはなかった。
「びしょびしょじゃあねぇか、おぃ、俺が暖めてやろうか?んん?」
いいながら、今度はセリスの太股に手を伸ばすと肌に触れる寸前のところで阻止された。
「おおっと。わりぃなオッサン、俺の女なんだ」
ロックは二人の間に割り込むとセリスの肩を抱き歩き出した。

「大丈夫か? 受付、まだなんだ」
ロックは歩きながら言うと、怪訝な顔をするセリスに気付き「あ、わりぃ」と言って彼女の肩から手を退いた。
「部屋が空いていないのか?」
「一部屋だけしか。みんな雨で足止め食らってるのさ」
「…そうか」
「だから、お前には悪いけど…」
「いや、構わない」
「じゃあ、鍵もらって、荷物置いたらとりあえず風呂入んないと。このままじゃ二人とも風邪ひいちまう」
セリスの髪先からは未だにぽたぽたと水が滴っていた。

セリスはあまり自分の感情を表に出さない…そうロックは思っていた。
どんな過酷な状況でも弱音を吐かず、野宿にも質素な料理にも文句ひとつ付けない。
そんな彼女が帝国を裏切ったとなると、相当な理由があるに違いない筈なのだがロックは未だにそれが掴めないでいた。
マランダを落とし、常勝だと崇められ本来ならば絶頂期なはずの矢先の出来事であるだけあって帝国側はかなり動揺しているはずだのに
追っ手すらない状況だ。
「なんだかなぁ…」
イマイチ彼女を掴めない。
ロックは顎まで湯に浸かると一人ごちた。
ノーヘンの源泉は温度が低く本来なら浴用には向かないのだが、この宿ではわざわざ温泉を加熱している。
その手間がかかるせいでここの温泉もいまいち活気付かない。こんな北国で低温温泉が沸くとはなんとも皮肉である。
雨が降らなければ客も少ないだろうに、ついていない。
(頭がくらくらする)
色々と考えを巡らせていたロックはすっかりのぼせてしまい、急いで湯から上がると新しい服に袖を通し部屋へ戻った。




扉を開けると狭い部屋に一つだけある窓の側に彼女は立っていた。
「おかえりなさい」
かちゃりとなったドアの音に反応して、窓に映った人物にセリスは声をかけた。
「あ、うん。雨、止まないな」
セリスの隣に立つと彼女がするのと同じように外を眺めたのだが、気づくと窓に映る彼女を凝視していた。
(顔、ちっせぇ…)
彼女の体温が空気を伝わり、ロックの肌に触れると火照った身体がさらに熱くなるのを感じた。
それを知ってか知らずかセリスは両開きの内窓を開けると、二枚の窓に板挟みになっていた冷たい空気があふれ出た。 
外窓に手を触れると、ひんやりと冷たい感覚が風呂上りの身体に伝わりその手を引っ込めた。
「外は、随分と冷えるみたいだ…」
「明日には発ちたいのになぁ〜。この天気じゃ山を越えられない。あと、二、三日様子を見るか…。あ、脚の具合はどうだ?」
「もう何ともない。世話をかけたな」
ロックはセリスが微笑んだように見えてなんだかうれしくなり、続けた、
「下に飯食いにいかね? どっちみち、明日は山には入れないんだしゆっくりできそう」
「そうだな」
内窓に施錠するとセリスは再び外を見た。外では相変わらず雨が降り続いている。二人の距離を近づけるために。

おわり

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