FF6 SS

□◆満天の星空の作り方
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昼間の暑い日ざしに比べて、夜は酷く冷え込んだ。

日中、暑いからと言って肩を出して剣を振り回していたセリスは上着を羽織ってはみたものの、
布が擦れる度に火照った肩や首がひりひりと痛むのでいつしか脱ぎ捨ててしまっていた。

脱いだ上着を腹に掛けて、セリスはひとり甲板の上で寝そべっていた。
夜の空気ですっかり冷えてしまった船板が彼女の背中にひんやりと伝わる。
世界が壊れてしまったあの日から星を見ようと思ったことなどなかったのだけれど、
ふと見上げた夜空に星が一つもないことに気付いた彼女はこうして背を床に付け、仰ぐ。

「やっぱりここからじゃぁ見えない…」

船の先端を陣取っているにも関わらず、停泊しているせいで寝そべってしまっていては
空すらまともに拝めない。
そんなことは分かっていたのだけれど、そうする事しか思い浮かばなかった。
思い立ったが吉日というべきか、彼女のすばらしい行動力というべきか…常人なら星を見るために
飛空挺の甲板に寝そべることなどしない。
そう、彼女は今酔っているのだ。

セリスの視界いっぱいに広がるファルコン号の気体。
外皮が所々剥がれ落ち、錆付いた金属の枠組みがちらりとその姿を覗かせる。
以前ロックがブラックジャック号を「オンボロ」と称したがその言葉はファルコン号にこそ
相応しいと彼女は思った。


「おっ、こんなところに居た」

突然視界に入ってきたロックに驚くこともなく、そして瞬きもせずにセリスは、仰ぐ。
返事のないのを不信に思ったロックは彼女の頭の横に立ち、上を見上げた。
「?? なにかみえるのか?」
「…穴」
「へ??」
「穴が見える」
「あー…ボロいからな。そのうちセッツァーが直すだろ」
そう言いながらセリスを引き起こした。
アルコールの入った身体は思うようには働いてくれず、頭の中がくるくるまわるような感覚に
立ち眩みを覚えたセリスの背中をロックが支えた。
「っと。大丈夫か…ってうわあ、お前の背中冷たいのな」
「うん、床がひえてるから。でも、気持ちよかった」
ふにゃっと彼女が微笑んだ。
普段は見ることの出来ないやわらかい彼女の笑顔に胸がざわつき、抱きしめたい衝動に駆られるが
寸でのところで抑える。
「気持ちよかったじゃないよ、身体壊すって。ほら、コレ着て」
嫌がったセリスだがしぶしぶ言うことを聞いて上着に袖を通してみると、
先ほどより皮膚の痛みは消えているようだった。



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