Titles of limitation in autumn

□◆冬も温もりをください
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冬も温もりをください




 「ティナもまだ寝てるの?」
「いや、ティナなら今し方洗濯場に向かったよ。なんか服が乾かないからって」
「あらそう、じゃあ私はロックを起こしにいってくるわ」
「え?ロックを??」
「ええ、なにか?」
「いやいや、何でもない」
「何よ、意味ありげね」
「そんなこと無いって」
「そう?」
「ああ、アールグレイでいいなら、俺煎れておくけど」
「お願いするわ。すぐ戻るから」

 セリスが食堂の扉を開けると廊下から一気に冷たい空気がマッシュの足元に届く。
幾ら鍛えられた身体とはいえ雪深いナルシェの気候には歯が立たないらしく、
掠める冷気に耐え切れず素足をタイル張りの床から浮かせた彼を見て彼女は小さく笑った。

 ナルシェの雪は溶けることを知らない。一年中降り続けるのだ。そして、今月は特に積雪量が多いという。
単に何年かに一度の異常気象なのか、それとも世界均衡の乱れの兆しなのか、本当の所は誰にも解らない。
唯一つ言えるのは、十一月の積雪として観測史上最大を記録したということだけである。
 そしてこの異常気象に動きを活発にしたのが魔物だ。
それ故に、ここナルシェでは殆どの家屋の窓は板で打ち付けてあり、扉の鍵も何重にもかけられている。
 ジュンの家も例外ではなかったのだが、マッシュが怪力で板を剥がし、ロックが器用な手つきで鍵を開け、
その間、下山して人里を荒らしていたルガヴィらを一網打尽にしたのは他でもないセリスであった。
「すごい!わたしたち、強盗団になれるわ!」
大きな翡翠の瞳をきらきらさせて嬉しそうにはしゃぐティナにセリスが心底落胆したのは、セリスあっての“強盗団”だからである。
マッシュとロックの二人ならば、ただの“窃盗団”に落ち着くのだから。
自分が暴力担当だと言うことに腑に落ちないセリスを見て男二人は腹が捩れる程笑ったのだが、その横で意味が解ってるのか解っていないのか、
恐らく後者であろうティナも楽しそうににこにこと微笑んでいた。
 そんなティナだか家事は卒なくこなす。けれど料理をするよりは、洗濯や掃除、人の世話をやくのが好きな彼女は、あの細い身体で大きな荷物を持ってはよく飛空艇中を走り回っている。
セリスはそんなティナの姿を見るのが好きだった。
 今も一人、ティナは洗濯場へと消えてしまった。
マッシュは台所でやかんに火をかけた頃であろうか。
セリスはこの長く痺れるように寒い廊下を急ぎ足でロックの居る寝室へと向かうのであった。



 トントンと、雪国仕様の分厚い扉をノックすると中から「開いてる」と篭った声が返ってくる。
セリスは扉を少し開け、中を覗くとベッドの上にはこれでもかと言うくらいの大量の布団に包まったロックの頭が見えた。
「ロック?・・・もう皆起きてるわ」
彼女が入室したのと同時に先程と同じように冷気が密閉されていた部屋へと流れ込んだ。
「んー、知ってる」
「じゃあ早く支度して。スープが冷めちゃう」
ベッドに近づくと腰を屈めけぶる様な銀髪を掻き分けると、ぱっちりと開いた琥珀色の瞳とかち合った。
「寒い、無理だって」
「ずっと目は覚めてたの?」
「うん、そうなんだけどね・・・あ、」
思いついたように顔を上げる。
「な、なに?」
「ほら!よくあるじゃん。おはようのちゅうってヤツ。あれやってくれたらすぐ起きれるかも」
「何甘えてるの」
「いいだろ、寒いんだから」
布団の隙間からのろのろと出てきた手はセリスの頭を撫でたかと思うと、ぐっと力を込めて自らの唇と彼女のそれとを重ねさせた。
「理由に、なってない」
吐息の掛かる距離で抗議の声を上げる。
「理由なんていらないだろ」そう返した彼は悪戯な笑みを浮かべてセリスの腕をぐいっと引くと布団の中へ引きずり込んだ。
「きゃあ、ちょっと、なに!」
「なにって、なに」
ぴったりと抱きしめると、交互に脚が絡む。セリスは何かが違うことに気付いた。
「服は?」
「着てないよ」
「何も???」
「うん」
開いた口が塞がらない。
「何で!」
「さっきからそればっかりだなぁ。暖炉の前に干しておいたんだけど、火が落ちちゃってさ。それをマッシュに言ったら、ティナが服持ってった。―で、ついでに下着も全部洗ってもらってる。一時間もすれば乾くからって。・・・わかった?」
顔を覗くとセリスは口をきゅっと結んでロックを睨み付けている。
「それでもこの状況の説明はされていないわ。私は全部ひっくるめて何でって聞いてるの」
「だから理由なんてないだろって」
ロックは白いセリスの首筋に顔を埋めると、音を立てて軽く吸った。
「んっ、いや、跡が付く」
「大丈夫。付けてないから」
「・・・私、行くわ」
「もうちょっとこうしてよう、俺のこと暖めて」
「貴方のほうが充分暖かいでしょ」
「そう?じゃあ、お前のこと暖めてやる」
自分自身は何も身に着けていなくて、彼女は服を着ているというのにこの心地よさはなんだろうとロックは思う。
布越しからも伝わる彼女肌の柔らかさに心が満たされる。大きく息を吸い込み、肺いっぱいに彼女の香りを満たすとセリスが身を捩った。
ロックは抱きしめる腕に力を入れ、絡んだ脚で彼女の腿を締め付ける。
「・・・ねぇ」
「あ、うん。なんか、勃ってきちゃった」
「・・・・」
「なぁ、セリス、このままさぁ、」
楽しそうに衣服を脱がしに掛かるロックにセリスは悲鳴を上げる。
「駄目!無理無理無理っ! 絶ッ対!駄目ッ!!」
「駄目じゃないし、無理じゃないって。すぐ済ますからさ」
「駄目よッ!しかもその発言ってどうなの」
「やっぱり時間かけた方が良い?」
「そうじゃなくって!」
器用にも肌蹴させられた彼女の肌に、ロックは有無を言わせず舌を這わせた。
こうなってしまうと、後は流れに任せるしかない。頭の中で今日のスケジュールを組み立てなおしながらセリスは腹を括った。


 
 ティナは次々と開いてゆく茶葉をみつめるとポットに蓋をした。
「セリス、帰ってこないね。わたし、様子見に行ってこようかな」
がたんと音を立てて立ち上がった彼女をマッシュが慌てて静止する。
「わ! ま、待って! もうすぐ戻ってくるって」
「どうしてわかるの?」
大きな瞳をしばたかせて覗き込むように聞き返してくるティナは何ともかわいらしい。
そんな彼女に理由など話せるものか。
セリスが部屋へ向かった時点でこうなる事は何となく予想はできた。
しかし、ロックだって大人の男だ。自制を効かすだろうと思っていたのだが。逆に“大人の男”だったからいけなかったのだろうか。思い過ごしかもしれないが、余りにも時間が掛かりすぎている。
マッシュは頭を悩ませた。
「いや、ほら、ガウン、そう!ガウンが見当たらなくて探してるのかも」
「そう?わたし、椅子にかけてきたのになあ」
不服そうに漏らすティナは未だに納得がいかない。
 半刻程過ぎた頃、いやに上機嫌で現れたロックも、少々不機嫌な面持ちで現れたセリスも、テーブルの上が片付かないと言う理由でティナから散々お叱りを受ける羽目になったのは言うまでもない。




おしまい

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