FF6 15_Title_Novel -tragic love-

□7◆痛み
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「もっとゆっくり君の背中を見ていたいんだ」

取り敢えず上着を羽織りだした彼女に言ってみたが、何も反応が無かった。
慣れた手つきでぷつぷつとボタンを掛ける仕草も色っぽいことには変わりは無いのだけれど、
どちらかと言えばボタンを外しゆるゆると服を脱ぐ仕草の方がなお良い。
しかしカーテンの隙間から入り込むネオンに浮かび上がる白い背中というのもなかなか…。

「背徳的でぞくぞくする」
きっと彼女はどう言いくるめてやろうかとこんこんと考えている。
心地よい沈黙。
「…やめてよくだらない」
拍子抜けの一言。
それでもちらりと振り返った彼女の顔は羞恥に染まっているように見えた。
ああ、なんて愛おしい。

「私のピアス知らない?サイドテーブルに置いたんだけど」
「小さい石が付いてるやつだろ?」
「小さいって言わないで下さる?」
はい、スミマセン。
「下に落ちたか、ベッドに紛れ込んだかだなー、君って意外と激しいから」
「そ、それは貴方が…ッ」
「なに?」
「なんでもない」
引っ張ったり転がしたりしたから?
「あ、有った。ほら、やっぱり小さい石だ」
ベッドの足元から出てきた彼女のピアスのポストを摘んでくるくると弄ぶと、小ぶりながらカットが施された石がきらきらと反射した。
あの時はそんな余裕がなかったけれど、今思えば二ケアでもっと良いものを買ってやれば良かった。これから先は長い旅になる。
「どうにかジドールあたりまで行ければいいのがあるだろうな」
「?、なんの話?」
「アクセサリー」
「ジドールのはただの贅沢品!実用性がないじゃない。私にはこれがあるからいい」
「なんでさ、誰かに貰ったとか?」
ここで誰かなんて漠然とした言い方するのも野暮というものだろうか。
案の定彼女は少し口ごもった。
ほら、図星なんだろ。
「これは、昔からしているものなの」
へぇ、そうなんだ。的外れだ。
「思い出の品ってことか」
「そういうこと」
彼女は儚く微笑んだ。

「…彼から貰ったものは何も無いわよ」
「ふぅん」
彼女がベッドに腰を下ろしたので、その細い背中を抱きしめ艶やかに香りたつ首筋に顔をうずめる。
はらはらと二人の金糸が交わる。
心地よい感覚に酔いしれるのと同時に、身体か心の奥のほうで疼く醜い感情をやり過ごすと彼女を抱く腕に力を込めた。
身体が軋む音がする。
「心だってくれないんだから」
心が軋む音がする。
「気持ちは伝えた?」
篭った声が振動して彼女の身体が響いた。
「キスもセックスもしたけど、愛してるとは言ってない」
淡々とそう告げる彼女は一体どんな表情(かお)をしているのだろうか。
想い人を焦がれるその姿すら愛おしい。
それでも今は、
「今だけは、私のものでいてくれれば、それだけでいい」

愛しい君に捧げよう、この狂おしいほどの愛を。



atogaki
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