FF6 15_Title_Novel -tragic love-

□1◆傍にいたいだけ
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Nr.1 傍にいたいだけ


 「止まった?」
「ちょっと待て・・・あ、まだ動いてる」
閉じ込められた水銀はふつふつと上がり続け、まるで止まることを知らないかのよう。
 ロックはベッドに潜り込んだセリスの顔を覗くと熱で潤んだ青が揺れる波のように思え、
普段愛用しているバンダナを少しずらし自らの額を彼女のそれにくっ付ける。
「うわッ あっつい」
額の熱に琥珀色の瞳を大きく見開いて驚くと、セリスから呆れた声が漏れ出す。
「そんなことしなくても熱いのわかってるでしょう・・・」
「だってさ、どきってしない?こうするの」
「・・・しません」
「あそう」
「もう退いてよ。うつる」
「唇も熱い」
「ばっか」
セリスは動かすのも辛い腕を持ち上げ、ロックを引き剥がし水銀計の目盛を見やると
「40度・・・」
呟いて目を閉じた。


 思い返すとセリスは昨日の夕方からなんとなく身体が重く感じていた。
普段通りの生活をしていた筈なのに、何度思い出してもあの事件が恨めしい。
ジドールに立ち寄った一行はこの街の只ならぬ雰囲気を察し、
騒ぎ立てる婦人らに話を聞くとなんとオペラ座で見たことも無い生き物が暴れていると言う。
その姿はまるで太古の恐竜の様であると。暴れ狂う魔物を退治する事など日常茶飯事である。
苦戦を強いられるもその恐竜を退治することが出来たのだが、本当の“苦戦”はそれからだった。
『あの娘、マリアに瓜二つじゃないか』
別に特定の誰かが言い出した訳ではなく、観劇していた客の殆どがそう思ったのだろう。
裏口から出たにも関わらず、セリスとその一行は一瞬にして報道陣や野次馬に囲まれる羽目となったのだ。


 「あの時一緒に居たのが俺だったらそんなに騒がれなかったのかな」
部屋に備え付けられていた椅子に跨り、背凭れに肘を着くとロックはそんな事を言った。
テーブルには早速発行されたゴシップ誌。紙面を飾るのは先日の竜退治騒ぎの後、報道陣からセリスを守るエドガーとのツーショットだ。
 その場には他の仲間も居たはずなのに、うまい事『熱愛発覚!』という活字で存在を消されている。
セリスは一般人であるにも関わらず細い黒線が申し訳程度に目に掛かっているだけで、それが尚更彼女の機嫌を損ねた。
「さあ、どうかしら。エドガーは爆笑してたわ」
「何に?」
「見出しに」
「ああ。これね」
「ふふ」
「やっと騒動も落ち着いてきたな。マリアのお陰だ」
「そうね。・・・ティナは?」
「厨房に行ってミルク粥作ってもらってる」
「バニラ入ってるのがいい」
「うん。そうしてもらってるよ」
「・・・良かった」
「ゆっくり休めよ。今までの疲れが出たんだ。変に騒がれたりもしたしな」
「ええ」
小さく呟き瞳が閉じるとすうっと寝息が聞こえた気がした。

 ロックは熱い額に口付けを落とすと冷やしたタオルを乗せてやり、置かれていた雑誌に目をやる。
表紙には『熱愛発覚!フィガロ王、マリア似の謎の美女とお忍びオペラデート!』と書かれている。
「エドのヤツ、くっつきすぎ」
小さく舌打ちをし一人ごちた。
「妬いてるの」
独り言に小さく返す声に驚き振り返る。
まさか聞かれているとは思わなかった。こんな子供じみた一面を知られてしまった事にロックはバツが悪くなって頬を赤らめた。
「悪いかよ」
「別に」
「寝てたのかと思った」
「食べてから寝るわ」
「そう」
「ロックは、」
「な、なに?」
妬いていたことをうんぬん言われるのかと思っていたロックは少しどもってしまう。
しかしセリスはその話題は終わったとばかりに潤んだ瞳を向けて淡々と続けてゆく。
「今日は何もすること無いの?」
「え、俺?うーん・・・結構みんなに任せっきりだなぁ」
「私・・・」
「ん?」
「一人で大丈夫よ。子供じゃないんだもの」
「いいだろ。俺はセリスの風邪に便乗してるの」
「ひっどい」
じろりと睨み付ける瞳は潤み、熱に犯された頬は上気しているため、迫力が無いどころかいやに色っぽいとロックは不謹慎な事を考える。
「・・・私、そんなに浮気な女じゃないわ」
その言葉にロックはどきりとした。まさかここでぶり返されるとは思っても見なかった。
「それとこれとは別なんだよっ」
“それに別にお前が浮気な女だなんて言っていない”そう言いたかったのだか何だか自分が情けなくなるので寸でのところで抑えた。
剥れるロックがたまらなくいとおしく感じたセリスは更に彼を追い詰める。
「じゃあ“これ”ってなに?」
「何でもないよ。俺はただ・・・お前の傍にいたいだけ」
「・・・ふぅん」
セリスの頬が上気しているのは熱のせいだけではない事を、この時のロックは不覚にも気付けないでいたのだった。



fin.
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