☆たからもの☆
□barely
1ページ/12ページ
砂漠が好きだ、なんて言ったら、大抵の人から正気を疑われることになるだろう。
いや、正確に言うと、俺は砂漠が好きな訳ではない。
砂漠という厳しい土地を踏破したときの、あのなんとも言えない達成感が好きなのだ。
砂漠とは孤独で恐ろしいものだ。
そこにあるのは、空と砂の大地だけ。
旅人は道のない砂の海をコンパスだけを頼りに進まなくてはならない。
少しでも迷いがあれば、進むべき方向を見失ってしまう。自らが歩いてきた道も、風に飛ばされ足跡すら見えない。
俺はそんな厳しい砂漠に挑むこと自体が、価値のあることに思える。
もちろん、暑いし辛いし遠いし、ひたすら歩いている時は、こんな砂漠のど真ん中に城なんて建てやがった顔も知らない昔の王様を恨みたくなるけれど。
厳しいぶん、征したときの喜びははかりしれない。
砂漠に神様がいるとしたら、それは気難しく、気分屋の女神だろう。
きちんと準備をして、敬意を払うと彼女は道をあけてくれるが、それを怠ると彼女は容赦しない。
怒りは荒れ狂う砂嵐になり、軽蔑の眼差しは旅人を乾かす灼熱の太陽だ。
実際、燃えるような日差しの中、汗を垂らしながら砂の山を登っているとき、誰かに見下ろされている感覚に陥ることがある。
天上の遥かかなたから、ちっぽけな人間である俺が必死で砂を這い登っている姿を、じっと見ているのだ。
そして、気まぐれにまるでご褒美のように、オアシスという奇跡を与える。
人間という存在の小ささ、矮小さが砂漠にいると自然と心に入ってくるような気がした。