「俺の季節の到来!」



季節は乙女のためのものになり、レストランSAKURAのパティシエ如月蒼介のテンションは鰻登りとなった



「ねぇ、刹那ちゃん」


「何だい聡ちゃん」


「蒼介君のあのテンションの高さはいつまで続くと思う?」


「そんなのバレンタインが過ぎるまでに決まってるじゃない」



双子の弟を見る刹那の目は果てしなく遠かった


同じパティシエであり、再従兄弟でもある総司は浮かれまくってる蒼介を冷めた眼差しで見ている


総司にとってはバレンタインは菓子業界の陰謀だと思い、刹那は蒼介が好きな乙女イベントぐらいとしか思っていない



「総司、刹那片付けが終わったからといってだらけすぎじゃないか?」


「そうは言ってもね一君…こんなにチョコレートがあっちゃ」


「うん、さすがの僕でも無理だね」


「だからと言って…」


「一君!」



目を爛々と輝かせた蒼介が新たな生け贄を発見した


そんな一の肩をポンと叩く刹那と総司



「一君…先に教えてあげるよ。僕ら蒼介君の試作品味見してたんだよね」


「?」


「それこそ今日の夜食入らないってぐらい食べたからあと頑張ってね」


「…俺に食せと言うのか?」


「「当たり前じゃん」」



完璧にハモる2人に斎藤は顔を青くした



「ま、待て!俺は甘味は…っ!」


「一君にはこのチョコの」


「勘弁してくれ!」


「聡ちゃん、私らは暫く休憩室でコーヒーか紅茶でも飲んでよっか」


「そうだね」



蒼介に捕らわれた斎藤を無視して厨房の奥にある休憩室兼男子更衣室へと向かうのであった


休憩室には片付けが一段落した原田とバレンタインに向けての話し合いをする土方と山崎もいた



「左之君コーヒー一杯ちょうだい」


「僕にもコーヒーちょうだい左之さん」


「入ってきて開口一番がそれかよ」


「総司ならともかく何で刹那まで甘い匂い漂わせてんだ?」


「これは凄いな。かなり離れてるのに香るな」


「これ絶対シャワー浴びなきゃ匂いとれないし」



パティシエである総司なら甘い香りがしてもおかしくないが、コックである刹那からも甘い香りが漂っている


シャワーを浴びない限り落ちないだろう



「蒼介が暴走してんのか?」


「蒼介君ってばバレンタインがあと2週間に控えたもんだから張り切ってるよ」



原田からコーヒーを受け取り口にする2人


普段であればブラックは口にしないのにそれを口にするのは



「どんだけ食べたんだお前ら?」


「今日の夜食が入らないぐらい食べさせられた」


「あの蒼介君には覚悟しといた方が良いよ」



何かを感じ取ったのか刹那と総司がコーヒーを片手に隠れた



そのすぐ後ドタバタとこちらへやってくる音がある


そして休憩室に勢いよく入ってくる刹那と同じ顔の男



「オーッス!佐之君!烝君!土方君!チョコの試食してー!」



蒼介が何種類ものチョコを持ってやってきた


彼からは刹那や総司より濃いチョコの香りがした


そして彼らは悟った


刹那達は逃げたのだと


ちなみに蒼介のチョコの試食をしていた斎藤も限界を超え厨房で屍と化している


そうして、今日のSAKURAが閉店していて良かったと心から思う休憩室の片隅に隠れているキッチンチーフとパティシエ


そして明日が定休日で良かったとも思っていた



「絶対明日チョコによる胃もたれが出てるよ」


「それって土方さんだよね?」


「歳君って甘いものもお酒もダメだから人生の半分を損してると思うんだけど」


「確かにそうかもね」


「厨房で死体と化してる一君を拾って帰ろっか」


「そうだね」



彼らは帰った


オーナー、バーテン、フロアマネジャーを生け贄にして


こうしてバレンタインが終わるまで彼らの試食は続くのであった


バレンタインフェアが成功になったのはひとえに彼らの試食によるものが大きかった


そして、彼らがスポーツジムで汗を流す姿が見られるのであった



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