名言&台詞&言の葉

□キュン(ぐっ)とくるシーンin彩雲国物語
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【彩雲国物語〜蒼き迷宮の巫女〜p150.11行目〜p151.10行目】

立香はぽろぽろと泣いていた。
「私が、縹家の娘(むすめ)で、異能があったら……今すぐにでもこの体を差し上げられるのに」
隠(かく)そうともしないまっすぐな畏怖(いふ)と憧憬(どうけい)は、……瑠花に遠い昔を思い出させた。長い長い間、忘れていた眼差(まなざ)し。瑠花が守ってきたものを。
『わたくしの姫様……』
遠い遠い昔の、懐(なつ)かしい声がする。
埋もれていた……思い出さないでいた記憶(きおく)まで、よみがえってくる。 「……立香。『時の牢』が最後に開いたのはいつか、存じておるか」
「いえ……百年近く昔ときいておりますが」
「正確にはの、……八十年前じゃ」
紅傘(べにがさ)さして、マヌケな悲鳴と一緒(いっしょ)に豪快(ごうかい)に落ちてきた、五歳くらいの少年がいた。羽羽。
べそをかきながら闇(やみ)の中を見回し、まっすぐに瑠花を見つければ、お日様のように晴れた。
『あっ、いたぁ姫様!お姿が消えてから、ずっとさがしてたんです。気づいたら迷ってて、紅い傘(かさ)さした女の人に会って……「うーん、アイとコンジョウしか持ってない殿方ねぇ。この傘あげる」って言われて。知らない人に飴(あめ)もらっちゃいけないって教わったんですけど……じゃない。──迎(むか)えに参りました。帰りましょう、姫様。僕と一緒に』
帰りましょう。
「最後に幽閉されていたのは、……わたくしじゃったわ」
 

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