みじかいの
□コンビニ恋愛
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学校が終わったあとのバイト中に事件は起こった。私のバイト先はコンビニ。働き始めて一年半が過ぎ、常連のお客さん達にも顔と名前を覚えてもらえ、私の顔を見ると気さくに声をかけてくれるお客さんが増えた。今はバイトが楽しくて仕方ない、そんな年頃だ。
『困ります』
「気にすんな」
『いやいやいや…気にしますってば…』
いつも来てくれる、店の近所の大学生の伊達政宗さん。幼い頃に病気で右目の視力をなくしたらしく、右目には眼帯がされている。隻眼だけれど、一目で美男子とわかる容貌で、バイト先のおばさん達から人気がある。クリスマスケーキや恵方巻を沢山注文してくれる、店にとってはまさに上客。その政宗さんが、お釣りを受け取ったあとに小さな紙切れを差し出してきた。二つ折りにされた紙切れと、政宗さんの顔を交互に見ていると、政宗さんは開けてみろ、と目で合図してきた。紙を受け取り、開いて中を見ると、恐らく政宗さんのものだろうと思わせる11桁の数字とアルファベットの羅列。こんなこと初めてで、私は軽く混乱した。そして先程の会話である。
『勤務中ですし…すみません、受け取れません』
「だから気にす、」
『お待ちのお客様どうぞ!』
籠に商品をつめた後ろのお客さんをレジに通す。お弁当は温めますか?、揚げ物がお安くなってますがご一緒に如何ですか?、接客スマイルで対応していたら、政宗さんは舌打ちをして店から出て行った。それを見て、失礼なことしたかな、と思いつつも、内心ホッとしたのは内緒だ。
『お疲れ様です。お先に失礼します』
シフトの交代の時間がきて、私は挨拶をして外に出る。夜10時、外はもう真っ暗で少し静かだ。早く帰って寝よう、と歩き始めたとき、聞いたことのある声に呼び止められた。
「待ってたぜ」
振り返れば、そこには数時間前に帰ったはずの政宗さんがいた。
『ま、政宗さん…』
ずっと、待っていたのだろうか。政宗さんは吸っていた煙草を灰皿に押し付けて消すと、近付いて再び紙を渡してきた。さっきの、二つ折りの紙。
『あ、の…』
「バイトが終わったなら今はprivateな時間だろ?」
『そうですけど…』
「なら、渡しても支障はねぇな」
刹那のこと、ずっと気になってた、受け取ってくれねぇか?、と言われ、私はその紙を受け取る。
『こういうのって…いいんでしょうか?』
「さぁな。だが恋愛は個人の自由だろ?客が店員に惚れることもありゃ、逆もある」
『店員同士、くっつく人達もいますもんね』
「そういうことだ」
コンビニ恋愛
(メアドには kojyurou.maji893 と書かれていた)
「送ってくぜ」
優しく笑って差し出された大きな手を、私は握った。
(ついでだから送り狼になってやるよ)
(やっぱり返します、これ)