みじかいの

□アドリブの効かない奴は勝てない
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『ギャンブルってさ、』

「運だよ。運」


行き着けのパチンコ屋で知り合い、仲良くなった左近と、新装オープンの店に並んで他愛もないことを話す。まだ開店二時間前なのに、既に店の入口には数十人が並んでいる。この店は整理券を配らないから、並んでいる人は随分早くから並んでいたんだろう。しかし、平日の早朝からパチンコ屋に並ぶ奴の多いこと多いこと…こんなことやってないで真面目に働けよバカ共が。


「俺達もそのバカの一人だな」

『私は今日は休みですぅ〜』


平日の早朝にパチンコ屋に並んでいるけど、私はこれでも立派な社会人だ。スロプロなんぞで生計立ててる左近と一緒にすんな。スロプロなんて格好いいこと言ってても、所詮は無職だからね。ニートだからね。NEETだからね!


「ま、なんでもいーじゃん。それより狙い台、なに?」

『吉宗』

「なんだ、俺と同じか」


…吉宗。4号機最後の大量獲得機と言われる爆烈機。多彩な演出とプレミア告知、そしてボーナス中の1ゲーム連チャンの確定。なにより魅惑なのが、およそ8000分の1の確率で突入する超高確率モードの鷹狩り。うまいことハマれば数時間で数十万の勝ちも有り得るけど、ヤバいことハマると数時間で数十万の負けもある。


「5号機の吉宗じゃねーのかよ」

『仕方ないじゃん。書いてる奴が5号機の吉宗をまだ打ったことないんだから…大人の事情で4号機の時代ってことで…』

「ちなみにBASARAもスロ台出たことあるよ!」


大人の事情はさておき、私は4号機がホールから姿を消したらパチスロは辞めるつもりでいる。恐らく、今日が最後の勝負だ。そして、左近と会えるのも今日が最後だ。だって、左近とはこの店でしか会ったことがないから。


「しかし、折角の休みにパチスロなんて刹那も寂しい奴だよな」

『左近にだけは言われたくないわ』

「彼氏くらい、いるんだろ?」

『いたら並んでねーよ』


左近の言葉に挫けそう…まぁね、普通なら有り得ないよね。私だってパチンコ屋に並ぶより彼氏とデートしたいわ。けれど、悲しいかな。ここ数年、彼氏なんていねーんだよ。でもいいの、私の恋人は吉宗だから(なんて悲しい女)


「心の声、ダダ漏れだぜ…」

『うそ。聞かなかったことにして』

「彼氏いねーんだな…まぁ、俺も彼女いないけど」

『寂しい者同士、仲良く隣同士で打ちましょうや』


そうこう話しているうちに開店だ。並んでいた人達は一斉に店内へと入る。店からのDMで高設定台のヒントが出ているから、みんな必死だ。私は、というと別に慌てない。高設定でも出るときは出るし、出ないときは出ないんだよ。左近と一緒に入った店内は薄暗く、様々な機種のパネルが光っている。店内に流れる音楽はトランスだ。既に打ち始めている客もいるし、早々にボーナスを引いている客もいるのか、ボーナス開始の合図がホールに響く。


「お、2台空いてる」


左近と一緒に吉宗の島へと行くと、隣あわせで2台空いていた。左近はデータを見ながらどっちに座る?、と聞いてきた。データを見れば怪しいのは右側の台。けど、私は左側の台に座る。


「右のが怪しいぜ?」

『いいんだよ。ここでアドリブが効かない奴は勝てないんだから』


ギャンブルにも、恋にも、ね。


「お、名言」


そう言って笑うと、左近は私の右側に座る。軍資金を入れて貸出ボタンを押すと、メダルが受け皿に流れ出される。メダルを投入口に入れながら、左近は言った。


「刹那、勝負しようぜ」

『はぁ?』

「勝負時間は閉店まで。どちらがより多く出玉を獲るか…負けたほうは勝ったほうの願いを一つだけ聞く」

『なんでも?』

「なんでも。負けたほうは拒否権はねぇ。どう?」

『いいね。その勝負、乗った!』


左近が不敵に笑った。


「そうこなくちゃな!じゃあ、同時にレバーを叩いて勝負開始だ」







アドリブの効かない奴は勝てない
(俺の願いは、刹那の彼氏になること)
(私の願いは、左近の彼女になること)




『よっしゃぁぁぁっ!!キーン鳴ったァァァッ!』

「え?」

『夕焼けハワイきたァァァッ!!1G連2回確定だコノヤロー!』

「マジで?俺まだ一度も引いてねぇよ!?」




(ちょ、見て!おみくじ三枚とも当たりだよ!)
(マジかよ…)

(よっしゃぁぁぁっ!鷹狩りきたぁぁぁぁぁっ!)
(左近、それ帰っちゃうんじゃない?)
(BIGきたぁぁぁっ!)
(え、まさか天国入っちゃってる?)
(ワリィ。俺、勝っちゃうかも)
(負けてたまるかァァァッ!!)



ちなみにBASARAのスロ台はマジであります。

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