僕と彼女のヒミツ

□俺の采配こそ天下無双
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とある店の前で僕は立ち止まる。そこに入るには一戦交えなくてはならない。敵は白く大きい。奴等の目は無垢でキラキラと輝いている。おのれこの世の汚れ等何も知らないような目をしやがって…その四つの目をじろり、と睨みつける。


「退け」


一言そう放つが退く気配は無く、奴等は立ち上がる。息を荒くして僕に近付く奴等を威嚇する。だが、嬉しそうにこちらへと寄ってくる。


「邪魔だ…」


制止を聞かず奴等は飛び掛かって来る。その攻撃を避け、距離をとると、奴等は盛大に騒ぎ始めた。


わんわんわんわんわん


「ちぃっ…!」


吠えた。犬共は吠えた。僕に早くこっちへ来てモフれと催促しているのだ。冗談じゃない、あんなものモフれるか!僕は犬が嫌いなのだ。誰が貴様等の相手をするものか。早くそこを退け、そして吠えるな、近所迷惑だ。吠える犬共の声を聞いて店主が店の扉を開けた。


『三成、吉継、どうした?』


ここに来る度に思うことがある。何故犬に戦国武将の名前を付けているのだよ!ボルゾイですよね、ソレ。もっと洋風にバロン、とか名付けても良かったものを…そっちのほうが似合っている。こちらに向かって吠える三成と吉継を見て店主は僕を見る。


『何やってんの?早く入りなよ』

「いつも思うんですが、何故三成と吉継なのですか」

『似てるんだよ』

「誰に…」

『三成と吉継に』

「…」

『入りなよ』


あの、犬をどうにかして下さい。このまま行ったら間違いなく三成と吉継の餌食だ。顔を舐め回される。目を逸らさず、一歩ずつ近寄る。三成と吉継は更に目を輝かせる。やめろ、そんな目で見ても無駄だ。


わんわんわん


『どうどう、羅生門で威嚇するな』


毛を逆立てた猫のように羅生門を発動する僕を、店主は背中を撫でて落ち着かせる。そのまま店主の背後から店へと入った。


『毎朝よくやるよ』

「あの武将共、なんとかして下さい刹那さん」









俺の采配こそ天下無双
(嫌いなものはネタとして大事に使う)







刹那
店主の名である。彼女はいつもと変わらぬ笑顔で言った。


『ダメ。番犬だからね』
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