金色のコルダ

□この想いを音色にのせて
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はっ!?」
 俺は、ベットから飛び起きるようにして目を覚まし、辺りを見回した。一瞬ここがどこか分からなかったが、ゆっくり呼吸を落ち着けると自分が今どこにいるのか認識できるようになってきた。見慣れないがココは確かに自分の部屋だ。必要最低限の物しか置いていない殺風景な部屋。しかし、防音設備だけはしっかりとしていた。
 「夢か…。」
 嫌な夢を見た。それは、最愛の女性が泣いている夢。
 「…香穂子。」
 ウィーンに来て、どのくらいが経過しただろうか。ウィーンに来てからというもの、俺がまだ日本に居た頃の夢を毎日のように見続けるようになった。最愛の女性との最後の日。彼女は泣いていて、ほとんど喧嘩別れのような形になってしまっていた。…もうふっ切ったつもりだったんだが。


 「蓮くんのバカ!!」
 いつだったろうか。卒業式を目前に控えながらも、音楽科は慌ただしかった。コンクールの練習だとか、試験の実技のための練習だとかでだ。俺は、皆を見ていて、今更焦ったってどうなるわけでもないし、普段からの積み重ねがあるからこそ本番で実力を発揮できるのではないだろうかとそんな事を思っていた。しかしそんな中、香穂子から呼び出しを受けた。場所は屋上。そして、彼女に会うやいなや開口一番に怒鳴られてしまった。
 「なっ!何を急に言っているんだ?君は。」
 彼女に、馬鹿と言われる意味が分からなかった。いや、実際には分りたくなかった。それは、彼女に今まで言い出せずにいた事があったからだ。
 「しらばっくれないで!」
 怒鳴りながらも、表情は今にも泣きそうだった。観念して、黙っていたことを話そうかと逡巡していた時、香穂子の口が先に動いた。
 「…ホントに分かってないの?じゃぁ、卒業したら留学っていうのは?」
 「…っ!!」
 やはり…。まさか、彼女が知っていたとは。ずっと、話そうと思いながらも話せないでいた留学の事。俺は、何も答えられなかった。そして、何も答えない俺を肯定とみなしたらしい。彼女はとうとう一筋涙を流した。
 「やっぱ、ホントなんだ。天羽ちゃんから聞いたの。私、びっくりして…。」
 天羽さんか…。たしかに彼女なら知っていてもおかしくない。香穂子と仲が良かったのを忘れていた。しかし、天羽さんの事だ、俺が香穂子にもう話していると思って、話題にしてしまったのだろう。
 「話を聞いてくれ。」
 「聞きたくない!!」
 「香穂子…。」
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