オリジナル

□月の涙 1
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ここは、フィーラと呼ばれる一族が住む森の中。僕の名前は、ソレイユ。一族を束ねる族長の子として生まれ、何不自由のない生活を送っていた。
 そんな僕は今、集落から離れた森の外れまで歩いている。ある人物に会うために…。
 「ルーン!!」
 「また、来たのですか…。…ここには来るなと、君には何度も言ったはずですが?」
 不機嫌を隠すこともせずに棘を持つ言葉を発する彼は、ルーン。僕と同じフィーラの一族だ。しかし彼は、一族と共に集落で暮らしているわけではなく、集落から離れた森の外れに一人で暮らしていた。どうして、ルーンが一族から離れて一人で居るのか、その理由は彼の姿にあった。
 フィーラは、4枚の羽根を持つ一族だ。しかしルーンには、その羽が1枚しかない。その理由を知らない者は、誰もいない。それは、彼が大罪を犯し、集落を追放されたからだった。
 フィーラの一族には絶対に犯してはならない最大の禁忌が一つだけ存在している。それは、巨大な身体を持つヒュムと呼ばれる一族に姿を見られること。基本的にヒュムの一族には僕たちの姿は見えない。しかし、稀に見えてしまう者が居るらしい。大昔は共存していたと伝承にはあるのだが、今では最大の禁忌とされ、ルーンはその禁忌を犯した大罪人として集落から追放されてしまったのだった。見たことはないけど、ルーンの額には罪人の焼き印が押されていることだろう。
 「大丈夫だよ。ここに来てること誰にもばれてないし。」
 「そういう問題ではありません。」
 僕の能天気な発言に呆れた様子を見せつつも彼は、僕を力づくで追い出そうとはしなかった。だからこそ僕はそれに甘え、ここを去らずに我儘を押し付ける。
 「ねぇ。僕、ルーンの笛の音が聴きたいな。聴かせてよ。」
 「聴いたら、帰ってくれますか?」
 「うん。約束するからさ!!」
 そう。初めて会った日にルーンの笛を聴いてから、その音色が頭から離れずに、毎日のように帰る事を条件にルーンの笛の音を聴いていた。最初は、帰れの一点張りだったルーンも、今では諦めたのだろう。なんだかんだ文句を言いつつも、僕が頼むと必ず笛を奏でてくれる。
 僕は、本当にこの短い時間が好きだった。ルーンの笛の音はとても澄んでいて、そんな音色を奏でる彼が大罪を犯したなんて信じられなかった。ううん。信じられないというよりも、罪人として意識をしたことがなかった。そんな事を思いながらも、彼の笛に耳を傾ける。
 ルーンは気付いてないと思うけど、しかめっ面しか浮かべないルーンも笛を奏でている時だけは、幸せそうな笑みを浮かべているのだ。そんな顔を見るたび、心の底から笛を奏でることが好きなんだと実感させられていた。しかし、それも笛を奏でる間だけ。奏で終われば、たちまち不機嫌な顔に戻る。
 「さぁ、帰って下さい。」
 「ありがと♪んじゃ、また明日ね!!」
 僕は、とたんに不機嫌になる彼に気付かない振りをして、一段と明るい声を出して挨拶をし、集落へ戻るのだった。
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