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□月の涙 序
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「あれ…?」
 日課としている朝の散歩の途中のことだった。どこからか微かだが音楽が聞こえたような気がして、よく耳をすまして聴いてみる。どうやら笛の音のようだ。
 「きれいな音…。どこから聴こえるんだろう。」
 笛の音がどうしても耳から離れない。そこで、その音色を追いかけてみることにした。しばらく歩いていると、ぽっかりと穴の空いたような、一瞬にして森から抜け出してしまったのではないかと思わせる場所に辿り着いた。笛の音は確かにここから聴こえる。そして、その音色を奏でている正体が平原の中心、まさに日の光がスポットライトのように当たる場所に居た。
 僕は、演奏の邪魔をしてはいけないと思い、ううん、もっとその音色を聴いていたくて、隠れるように葉の木陰に座り、その音色に耳を傾けた。しかし、突然その音色は止まってしまった。それが凄く残念で、同時になぜ止んでしまったのか不思議で、相手に見つからないよう様子を伺ってみる。
 音色の正体はどこか遠くを見つめ、前を見据えたまま動かない。そんな姿が幻想的で、どこか悲しく思わせた。目が離せずに見つめていると、あたりを見渡すわけでもなく前を見据えたまま、その正体は言葉を発した。
 「いつまで、そこにいるのですか?」
 そして、ゆっくりと僕のいる方向に顔を向ける。どうやら、僕がここに居ることを最初から分かっていたみたいだ。僕は観念して、彼の前に姿を見せた。
 「ごめんなさい。勝手に聴いていて。…とてもきれいな音色だったから…。」
 そう弁解をしながら、彼に近づく。しかし、ふと違和感を感じ足を止めてしまった。


 これが、僕たちの出会いだった。

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