金色のコルダ

□約束2〜月夜の下で新たな約束を〜
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とうとう今日は、日野の卒業式。あの日、あいつとこの屋上で交わされた約束が果たされる日でもある。約束を交わしてから今日まで俺たちはただの教師と生徒に戻ってしまった。当然、音楽教師と普通科生徒では接点もあるはずがなく、すれ違いの日々が続いていた。正直、あいつに会えないのがこんなにも長く辛いものだったとは、約束を交わしたときは思いもしなかった。いや、約束を交わした後でも変わらずにあいつと過ごせると思っていたのかもしれない。しかし、あれからあいつは俺の前に姿を現さなかった。まぁ、あいつが変わらずに俺を想っていてくれるのならば、それも今日で終わるというもの。
 だが、式典はとうに終わっていて、俺はいつものように屋上にいるというのに、あいつは姿を現さない。式典が終わって間もない時間ならば、友人たちとの話しに夢中になっているのかもしれないとは思えた。当の俺も生徒たちに囲まれてしまって、ここに来るまで時間がかかってしまったほどだ。友人の多いあいつならそれ以上に時間がかかるだろう。それとも、早々に屋上に来ていたにも関わらず俺が来ないから諦めて帰ってしまったのだろうか。それとも約束の事などとうに忘れてしまっていて、来ることもなく帰ってしまったのか。なんともいえない不安は募るばかりだった。
 「まぁ、あいつはこの学園にとって有名人だからな。いまだに囲まれてるんだろう。」
 と、一人ごちてみるが、不安は消えるはずもなかった。
 ふと下を見ると、生徒のほとんどが帰ったようだ。ここの付属の大学に進学するやつが多いから、別れを惜しむ相手がそう多くいるわけでもないのだろう。そう考えながら下を見ていると、もう帰ってしまったのではないかという思いが、だんだんと膨らんでくる。
 「俺もそろそろ帰るかな。」
 潮時と思い帰ろうと決めた時、後ろから勢いよく扉が開く音が響いた。
 「先生!!」
 そう、叫ぶ声が聞こえたと思ったら、俺に振り向く暇も与えずに背中に何かが衝突してきた。
 「うおっ!?」
 あまりの勢いに驚いたが、ぶつかってきたものは、離れる気配もなく、背中にくっついたままだ。
 それから、どれほどの時間が経っただろうか…。もしかしたら、それほど経っていないのかもしれない。しかし、夕日もなりを潜め、月の光が辺りを照らし出していた。そんな中、ゆっくりと背中のぬくもりが消えていくことに気づく。俺は、ゆっくりと後ろを振り返った。日野は、真っすぐに俺を見ていて、俺もそれに応えるように真っすぐ、日野を見る。
 先に口を開いたのは、日野の方だった。
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