金色のコルダ
□約束
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「今度、どこかに行きたいな…。」
「えっ?」
「コンクールに参加した奴等も連れてな。」
「あっ…そうですね。」
あの時の彼女の顔が忘れられない。
驚いたかと思えば、パッと表情を輝かせて。しかし、次の言葉を聞いて、一気にその輝きが失せていた。
「不覚だ…。」
屋上に二人でいたせいで雰囲気にでも酔ったか、思わず呟いてしまっていた。しかしそのおかげで、あいつを悲しませる事になってしまったのだ。
「そんな事できるわけないだろう…。」
「何が?」
「うぉっ!?」
森の広場のベンチに腰をかけ、一人頭を悩ませているときに突然後ろから声をかけられた。考えに夢中になってしまっていたため、後ろに人が居ることに気付かず不覚にも驚いてしまった。後ろを振り向くと、何かとおせっかいをやいてくる火原が居た。驚く俺に何の反応も表さずに、火原は質問をくりかえした。
「何ができないの?金やん。」
「火原か…驚かせるなよ…。」
コンクールが終わったにもかかわらず、火原は何かあるとすぐに俺の元にやってくる。…どうやら、懐かれてしまったらしい。
「何か、悩み事?俺で良かったら話しを聞くよ。」
火原は、満面の笑みで俺に聞いてきた。
「お前に話してどうする…。」
第一、人に話せるわけないだろう…。教師と生徒が二人で出かけるにはどうしたらいいかなんて。…って待てよ!!俺!!
「くそっ!!」
俺は、立ち上がると早足で森の広場を出た。後ろから火原が俺を呼ぶ声が聞こえた気がしたが、振り向く余裕も俺の中には残されていなかった。
そう。今思うと、俺はあいつに何も伝えていない。今まで、ずっとあいつの気持ちを知っておきながらも誤魔化して向き合ってこなかった。あいつは、そんな俺の事をどう思っているのだろうか。自分の気持ちを伝えたわけではないのだから、このまま知らない振りだってできる。俺は、どうしたらいい。