金色のコルダ

□簡単なようでいて難しい一言
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今日の俺はいつも以上に忙しい・・・。
 「柚木さま!!これ受け取って下さい!!」
 「柚木さま!!お誕生日おめでとうございます!!」
 正直、うざい…。しかし、そんな事は決して口にせず、かわりに俺は歯の浮くような彼女たちがもっとも喜ぶ言葉を口にした。
 「ありがとう。とても嬉しいよ。大事にするね。」
 歯の浮くような言葉なのは、自分でも分かっている。しかし、世の中を上手く渡っていくには必要なことではないのだろうか。
 そんなことを考えていると、後ろから明らかに急いでいますと言えるような足音が聞こえた。音楽科の生徒で廊下を走るような奴は、俺の知っている中では一人しかいない。音の方を振り向くと、案の定手を振りながら火原がこちらに向かって走っていた。
 「柚木?!」
 「やぁ、おはよう。火原。」
 俺は、朝から爽やかな笑顔を貼り付け挨拶を交わす。彼は、俺と同じクラスメイトであり、友人でもある。俺とは、正反対といえる性格。今日も、朝から随分と元気がいい。…しかし、火原でさえも俺の本性は知らない。
 「おはよう!柚木!誕生日おめでとう!!」
 「ありがとう。」
 「でも、ごめん!実はプレゼント、何も用意してないんだ。」
 「いいよ。火原から、お祝いの言葉を貰っただけで充分だから。」
 火原は、両手を合わせ何度もごめんと言った。プレゼントは初めから期待していなかったからショックでもなんでもない。まぁ、覚えていただけでも上出来だろう。
 そんな事を考えていると、火原は何かを思い出したように慌てだした。
 「あっ、やべ!!今日、日直だったんだ!ごめん!先行くよ!」
 そう言って、火原は走って教室へ向かっていった。しかし俺は、教室とは逆の屋上へ向かった。屋上は誰にも邪魔されずにゆっくりできるから好きだ。朝礼にはまだ時間があることだから、屋上で一息つこうと思った。どうせ、教室に行ったらまた、面倒臭い対応に追われるのだから。
屋上で空を見ながら考え事をしていると入口の扉が開き、誰かが入ってくる気配がした。こんな朝早くに珍しいな。そんな風に思いながらも誰か確認するわけでもなく、空を見ていると後ろから俺を呼ぶ声がした。
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