遥かなる時空の中で
□幸せの瞬間
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「あ〜あ、つまんないなぁ。」
外は、快晴だというのに、私の心は曇り空だ。庭を眺めながら一人ごちていると、後ろから突然声をかけられた。
「おっ?この世の終わりみたいな顔してどうしたんだい?」
「お義父さん。…私、そんな顔してますか?」
「まぁね。なんだ?俺の息子は今日も居ないのか?」
キョロキョロしながら私に確認するこの人は、ヒノエ君のお父さん。前熊野別当でもある。初めは名前で呼んでいたんだけど、お義父さんと呼んでほしいと懇願され、今は素直にそう呼んでいる。それにしても、私ったら心境が顔に出ていたみたい。そんな自分がおかしくって自然と笑みがこぼれてしまった。
「ええ。海の方に出てますよ。」
「最近、ちっとも姿を見せないね〜。」
そうなのだ。これが曇り空の理由。最近は仕事が忙しいらしくて、私でさえ彼の姿を見ることができずにいる。
「休んだ方がいいって言っても聞いてくれないんですよ。」
夜遅く帰ってくるヒノエ君を待って言った言葉は彼には全く届かなかった。思い出したら、さらに気持ちは沈んできた。初めは前向きに考えていた事も、私の言葉を聞き入れないヒノエ君を見ていると、どんどん後ろ向きになっていく。
私がさらに気持を沈めているところに突然、お義父さんが肩を抱いてきた。驚いて顔を向けると、お義父さんはニヤニヤしながら耳に顔を近づける。
「そんな奴ほっといて俺に変えないかい?」
「親父!俺の妻に何してんだ!?」
突然の怒鳴り声に、首を竦めつつ振り向いてみるとそこには、ヒノエ君が立っていた。血相を変えて大声をあげている。なんだかそれが新鮮で、不謹慎ながらも嬉しくなってしまった。
お義父さんはヒノエ君の姿を確認すると、私の肩から腕を離し何もしていないという風に上に挙げた。そして、白々しくも話しかける。
「おお!帰ってたのか。」
しかしヒノエ君は、そんなお義父さんの言葉を無視し、私の手を取って笑顔で挨拶をした。
「ただいま。俺の姫君。」
そして挨拶だけではなく、頬に軽くキスをする。それだけでは私は、さっきまでの曇り空が快晴に変わり、お帰りなさいと笑顔で挨拶をした。もちろん、ヒノエ君の頬にも。
「あ〜あ〜、帰ってきた途端2人の世界に入っちゃって。邪魔者は退散するとしますか。」
「親父、邪魔。」
そんなこと言う暇があるなら、早くどこかへ行けと言うように一蹴すると、あ〜あと呆れながら、お義父さんは、他の部屋へ行ってしまった。
しかし、なんだかんだ言って実はこの2人、凄く仲がいいことを私は知っている。そして、さすが親子だなと思うくらい性格が似てると思う。そんな事を考えていると、自然と笑みは深くなってしまった。
「何、笑っているんだい?」