†お話し その1†
□ 夢の先には IR
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「あ、此れ凄い〜!…」
「………」
「カッコいいなぁ♪」
「………りゅうちゃん…うるさいよ?」
ベッドの上で何やら雑誌を読みながら独り言を喋っている
詞をパソコンに打ち込む手を止めりゅうちゃんを見る
「雑誌なら向こうで読めば?集中できないんだけど?」
少し冷たく言うと甘えたような上目遣いと
拗ねたようなアヒル口で
雑誌から俺に視線を移す
「だって一人きりじゃ寂しいし…いのらんもいつ終わるかわかんないもん」
などと可愛いことを言われては
仕事どころではない
ベッドの脇に座り笑顔でりゅうちゃんの髪を撫でる
「何の雑誌?」
やっと興味が自分に向いたと瞳を輝かせて楽しそう
に説明する
「あのね〜F40♪カッコいいよね〜いのらんも好きでしょ?」
「まぁね…最高の車だよね〜歴史もあるし
Ferrariってさ完璧じゃないところがいいね♪
その分手が掛かるんだけど〜掛かった分余計可愛いしね〜
誰かさんと一緒でね♪」
ちゅっと頬にキスをすると擽ったそうにして微笑む
「ふふ(笑)語ってる♪」
「語らしてんのりゅうちゃんじゃん?」
「僕は〜これ以上アクセルを踏み込んだら
先に見える光の中へ
一緒に消えてしまうんじゃないかっていう
ゾクゾク感が堪んないかな?
思い通りにならないトコとか♪
いのらんみたいにね〜♪」
乗っている時の感覚を思い出しているのか
その表情はウットリとしていてヤケに色っぽい
Ferrariに魅せられて本当に行ってしまいそうだ
思わずぎゅっと抱き締めてしまう
「縁起でもない…消えるなんて…りゅうちゃんが言うとマジに聞こえるから!」
そう言って鼻を摘むと
さっきの顔とは違ってクスっと笑い優しい笑顔になる
「いのらん心配してる♪例えばの話でしょ!……あ〜あFerrari欲しいなぁ」
「りゅうちゃん持ってるじゃん」
「何台あっても困らないもん……二人で買おうよ♪」
「今ので充分でしょ?乗るだけで疲れちゃうし…
それに俺はFerrariより
手の掛かるコが傍にいるからね♪」
「なんかそれって酷いなぁ〜…でもねーFerrariって今まで頑張った証みたいなんだよね〜
中々手に入らないし…
だから夢中になるのかな?」
俺の髪を優しく掬いながら花が咲いたように笑う
そんなりゅうちゃんが愛しくて花弁の様な唇にそっとキスをする
「…何か…Ferrariに嫉妬しそう…りゅうちゃんを連れて逝かれそうで…」
「いのらんも大好きでしょ?それはお互い様だよ〜♪」
優しい笑顔が儚げに見えて何だか切なくなる
こんなに近くに温もりを感じるのに
ドコかに行ってしまいそうで…
この温もりが消えてしまわないようにもう一度抱き締める
「クスっ(笑)なんか今日のいのらん甘えん坊〜♪」
「………りゅうちゃんが傍に居てくれる事が俺の頑張ってる証かな…だから今は…俺に頑張って欲しいな〜♪」
そう言うと何を意味するのか悟ったように
真っ赤に顔を染める
そして恥ずかしそうに
耳元で囁いた
「…いのらん…愛してる…僕は何処にも行かないよ」
「…っ…りゅうちゃん…」
愛しさと切なさが胸に溢れだし押し潰されそうだったりゅうちゃんも同じ気持ちだったのだろうか
そんな気持ちをお互いぶつけるように
激しく抱き合った
欲しいものを手に入れたいと躊躇わず進んできた
手にした歓びを知ると同時に
失う恐さも知る…
永遠など無いかもしれないけれど
今以上の理想を求め歩く世界を
君と一緒に生き続けたい…
おわり