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□黒尾
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・男主人公×黒尾くん

『わかった、もういい』
低く突き放すような言い方に黒尾が二の句を告げずにいる間に、耳には無機質な通話の途切れた音がしていた。
むかっ腹が立ったので、黒尾も乱暴に携帯をベッドに投げつける。

「俺が悪いのか?」
そんな疑問を口にしたところで、黒尾しか居ない部屋には返ってくる答えなどあるはずもなく。
むしゃくしゃしながら黒尾はシャワーを浴びに風呂場へ向かった。





電話をしていた相手は、黒尾の恋人である千晴だ。
千晴と初めて会ったのは、烏野高校に練習試合に行った時だった。
千晴が従弟である日向翔陽の応援と称して、冷やかしに来ていた時に出会った。
お互いに一目惚れだったことは、告白した時に知った嬉しい事実だ。

試合が終わってから翔陽と研磨を通して連絡先を交換し、メールや電話でのやり取りを経て、夏に再会した時に告白をした。
二度目の対面で付き合うという、あまりの超特急さに音駒と烏野の両部員はあっけにとられていたけれど、これまで仲良くやっていた筈だった。


だいたい、千晴は神経質だと黒尾は思う。
もっと肩肘はらずにゆったりとテキトーに生きればいいのにな、と研磨にグチったら「クロはもっと真面目に生きたら」と感想を頂いてしまった。
俺のこんな大雑把な所が癪に障るんだろうか、なんてシャワーを浴びながらも考えてしまって、千晴の事を考えていると自覚した瞬間、頭を振って忘れようとする。

あっちが謝ってくるまで連絡してやるものか。
黒尾はそんな決意を胸に、満足げに頷いた。
忘れようとした端からそんな事を考えているのは無意識だったようだ。
そして、寝る前にチラリと携帯を見ては、溜め息を吐いて眠りについた。




***


「千晴〜、元気ないな!?」
「んー、まあな」
「黒尾サンとケンカしたんだろ!」
「うわ、名探偵ショウヨウのお出まし」
「真実はいつもヒトツ!」

へへ〜っと、某少年探偵の真似をして、翔陽は鼻を高くした。

「どっちが悪いんだよ」
「えぇ?どっちだろ、忘れた」
「じゃあ千晴から連絡すれば」
「何でオレが」
「もう喧嘩したくないなって先に思った方が連絡すりゃいいじゃん」
翔陽は時折、鋭い指摘をしてくる。
千晴は虚を突かれて、押し黙った。
どっちが悪いんだっけ、とぼんやり千晴は考えて、いったいどこから言い合いが始まったのかも覚えていないことに気づく。
たぶん、売り言葉に買い言葉で、それがヒートアップしたんだと思う。
それに過敏に反応した千晴が、もういいと一方的に電話を切ったのだ。
切られた黒尾がどんな気持ちになるかも知らず、これ以上話していたくなくて、勝手に切った。

それからは何のやりとりもしていない。
さすがに電話は毎日できなくても、メールは日に何通か送り合っていたのに。
真っ黒な画面は色を映すことはなく。


黒尾は、電話の一本でもくれているんだろうか。
ごめん、というメールを送ってくれているんだろうか。
それとも、腹を立てて千晴のことなんかほっぽって楽しくバレーでもしてるんだろうか。


もし送ってくれていなかったら。
自分だけ期待していて、もう見限られてしまっていたら。

比熱、という言葉を思い出す。
質量の小さいものは、熱を帯びるのも早い代わりに、熱が失われるのも同じく早い。
質量の大きいものは反対に、熱を持つのが遅い代わりに冷めにくい。

恋愛もこれと似ている気がする。
千晴は、黒尾の中身を知らないうちに好きになった。
もちろん今は、いろんな事を知って中身も好きだけれど。
東峰が「会ってニ回目で付き合うのってすごいよなぁ」と感心していた。
機械を通してのやりとりは、確かに月日を積み重ねていたとしても、生身のそれには敵わないのだろうか。
ニ、三カ月の文字の累積にも確かに心躍る瞬間はあった。
メールが届く度にソワソワしてワクワクして、会いたいなと身を焦がしたりして。

「やっぱり、隣にいなくちゃダメなのかよ」
「それを黒尾サンに聞けばいいだろ」
翔陽のひと言に、天啓を受けた気分になった。

「そっか、聞けばいいんだ」
「そうだぞ」
「そうする」
「おう!」
ニッカリと衒いの無い笑顔を見せてくれた翔陽に、千晴は迷惑ついでにと声を掛けた。

「頼みがあんだけど」



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