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□黒尾
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クロの部屋でのんびりしていると、スマホを操っていたクロがおもむろに画面を見せてきた。

「『カレをキュンッとさせる女性の仕草ベスト10』?なにこれ」
スマホを受け取って読み進める。
嘘くさい情報だ。自分も男の端くれであるわけだが、半分くらいは何とも思わない。

「これ」
トントンと最後の項目を指される。
「それが?」

ほら、と少し強引に押し付けられたのはクロのカッターシャツだ。
「え、もしかして」
「色っぽい感じでよろしく」
「えぇぇ!?」

ひらひらと手を振ってクロは部屋を出た。
扉にもたれて俺の逃げ場を奪っている。
「色っぽい感じって……」

『手の甲が隠れるほどの少し大きめな彼のシャツやニットなどを着てみましょう!胸元が少し開いているとよりセクシーになります。また、大胆に色っぽく迫りたいアナタには、思いきって素肌につけてみて!』

「す、素肌に……?」
カッターシャツは着なれているけれど、クロのシャツは確かに少し大きめだ。
「なー、ほんとに着なくちゃだめ?」
扉の向こう側に叫ぶと、絶対聞こえているのに無視された。

「なんで俺がこんなこと……クロがやればいいのに」
ぐちぐち文句を言いながら、決めたら引かないクロの性格を知っている俺は意を決して大人しく着替えはじめた。

「入るぞ」
「ちょ、まっ!」
ドアノブを捻られないように両手で押さえつける。
「焦らしてんのか?あんまり待たせると何するかわかんないけど」
恐ろしすぎる言葉にパッと両手を話すと、ガチャリという音と共に表れたクロは、ニヤニヤと俺を頭のてっぺんから爪先まで何度も見やがった。

「文句あるか!」
俺がのけ反って腕を組むと、クロは顎に手を当てて少し考えるそぶりをした。
「色っぽくって言ったよな?」
「ほら、下にシャツ着てないし!ボタンいつもより2個多く開けてるし!」
素肌につけて、セクシーに胸元を開いているぞと挑むようにクロを見やる。
「……ま、着崩れてるのもそそるけどな」
………お母さん、クロは上級者デシタ。


「んじゃ、手っ取り早く色っぽくなってもらおう」
「は?……っ!」
ゴムのゆるいズボンを履いてきたのが仇となった。
気づけば素早い動きでズボンをずり下ろされ、ぎゃー!と俺は悲鳴を上げる。
咄嗟に下着を捕まえたせいで下半身露出という恥ずかしい事態は免れたけれど、ボクサーパンツがクロの大きいシャツに隠れてしまっていて、これはこれで恥ずかしい格好になってしまった。

「返せ!窃盗罪だ!!」
「恋人のお茶目な悪戯は窃盗罪に入りませーん」
「お茶目じゃない!!本気だろ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ俺に、クロは声を潜めて耳元で囁いた。

「本気出してほしいのか?」
艶のある低い声ががっつりと腰に響いた。
ずるいずるい。ちょっといい声してるからってこれで俺が黙ると思ってんだもん。


何て返そうかと必死にぐるぐる考えていると、抵抗がなくなったことをこれ幸いとクロは裾からごつごつした手を忍ばせてきた。
「わ、ちょっと!」
「恋人の千晴クンのために、本気のご奉仕してやるよ」
「間に合ってるから大丈夫ですっ」
「そうだよな、いつも俺が満足させてやってるもんな?」
ニヤニヤといやらしい笑みで耳たぶを食むクロは明らかに楽しんでいて。
「からかうならもう着替える!」
『女性の仕草』ってところで既に男のプライドを傷つけられてるのに、これ以上からかわれるのはごめんだ。
口を尖らせながらクロを睨みつけると、視線を下げたクロは口ごもった。


「正直、こんなにクると思ってなかった」
ぼそぼそと告げられたそれはクロの本音だ。
「あざとくなるかと思ったけど、やばい。俺の好みド直球」
溢れ出す色気を抑えもせず、むしろ俺に全て呑み込めと言わんばかりだ。
舌なめずりして獲物を狩る気まんまんのクロに、俺はこくりと喉を鳴らす。

「お前、フェロモン出しすぎ」
「はぁっ!?く、クロのがよっぽど……」
「ふぅん?」
焦って本心を口にしてしまった。あ、まずい。またからかいの目に戻ってしまった。


「じゃあその俺のフェロモンとやらに当てられて流されちまえよ、千晴」
「……でも」
恥ずかしさにしり込みする俺を見て、クロはいきなり俺に覆いかぶさってきた。

「うわっ!?」
「恥ずかしがると余計そそるからやめろ」
「んっ……!ん、ぅ」
余裕なさそうに唇を貪るクロの姿に、胸が高温に熱されたとろとろの蜜で満ちるような感覚に陥る。



そうして今度は、裾から忍び込む不埒な手を許したのだった。


(カレをキュンとさせる女性の仕草ベスト10だってよ!)
(こんなことしてくれる彼女なんて居ないよな〜)
(それな、なかなか当たってるぞ)
(クロ!変なこと吹き込むな!)

>>>
黒尾くん見事に撃沈です……。
クロ研とかクロ研とかクロ研とか見て勉強したんですが……。
口調とか全然違うとは思いますが生ぬるい目で見守ってください。

智秋さま、こんなお話ですが読んでいただけたら幸いです。
企画へのご参加、ありがとうございました!!
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