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□カルテット
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嶺ちゃん、蘭ちゃん、藍ちゃん、ミューちゃん4人の作曲家である僕は、ディレクターさんへの挨拶や曲のインスピレーションを得ることも兼ねて、よくみんなの撮影現場に見学に行く。
たまたまその日、藍ちゃんが出すCDのジャケット撮影を途中から見学することになった。
ふわふわの白いマフラーを身につけた藍ちゃんが、マフラーを口元まで上げながら上目遣いでカメラに目線を送っている。
さっすが藍ちゃんは可愛いなぁ……と、ほわんとしていると、撮影が終わったようだった。
真剣に写真をチェックしている藍ちゃんとカメラマンさん。いろいろと話し合って、数枚の候補を出し終えたみたいだ。
お疲れ様でしたという声と共にバラシに入る。僕は藍ちゃんが気づくように軽く手を挙げると、藍ちゃんがこちらにやってきた。
「お疲れさま、見てたよ。藍ちゃんすっごくカッコよくて可愛かった」
「可愛いは余計だよ」
「だって藍ちゃん可愛いし」
「可愛いのは千晴でしょ」
可愛いと言われることが不服な藍ちゃんは、僕にもその気持ちを味わわせようとそう返してきた。
「そう?あ・り・が・と」
だけど僕は生憎、褒め言葉は素直に受け取るタイプなので痛くも痒くもない。
かわいこぶってお礼を言うと、うざったいよとほっぺを軽くつねられた。
「ひっぱんないでよ〜」
好きなだけむにむにされていたけれど、まだディレクターさんやらカメラマンさんに挨拶してないことにはたと気づいた。
「あ、そうだ。藍ちゃん、僕挨拶に行ってくる」
「ボクも行く」
藍ちゃんが先に立って談笑している二人のところへ行くと、よそ行きの顔で藍ちゃんが二人に話しかけて僕を紹介してくれる。
「日高千晴と申します。よろしくお願いします」
今回のCDももちろん僕が作曲したもので、その時にディレクターさんとは顔合わせしている。だから僕はカメラマンさんに自己紹介をして頭を下げた。
カメラマンさんは新進気鋭の若手さんで、最近よく名前を聞くようになった人だ。
「あらっ、ずいぶんと可愛いパートナーちゃんじゃないの、藍ちゃんっ」
「はい。ボクにとってこれ以上ないパートナーです」
「あらやだ、ノロケね!?」
甘酸っぱいわぁー!と身体をくねらせるカメラマンさんに二人で苦笑する。
ひとしきり悶えたカメラマンさんが僕に向き直って、
「千晴ちゃんは、モデルとかやってないの?」
「僕は作曲家なのでそういうのはやってません」
作曲家として早乙女学園に在籍していたときも、歌手になれだのモデルになれだの俳優になれだの言われていたが全て断っていた。
「えぇっ!ざんねーん!せっかく次の企画にうってつけだと思ったのに!」
「次の企画?」
「そう。ほら、今度『QUARTET★NIGHT』でアルバム出すことになったでしょ?あれの撮影もアタシが任されてるのよ」
一回だけだったはずのグループが予想以上に好評で、個人の活動に加えて『QUARTET★NIGHT』での活動が多くなった。
それから何枚もCDを出して、ついにアルバム発売まで漕ぎ着けることに成功したんだ。
予約特典につけるボーナストラックも随分前に作り終えた。みんなの収録も終わって、アルバム製作も終盤に差し掛かっているころだ。
CDジャケットや歌詞カードの一部用の写真のスケジュールは来週に控えているとみんなが教えてくれた。
「彼らの曲はセクシーな曲が多いでしょう?だから、1人の美少女が4人のイケメンを侍らすっていう構図を考えてたのよ!」
「びじょ?」
「そ。千晴ちゃん、その美女になってみない?」
パチッとウィンクされたけれどそれどころではない。
「ええとその、状況が上手く掴めてないんですけど、」
「つまり千晴が女装して撮影に参加しろってこと」
「藍ちゃんビンゴ!」
「えぇ〜〜〜〜!?そ、それはさすがに。僕、一応ちゃんと男だし、そういうのは林檎先生とかにやってもらうのがいいんじゃないですか?」
「林檎ちゃんも確かに可愛いわ。でも、それだとちょっとマンネリになっちゃいそうなのよね」
女装アイドルとして絶好調の林檎ちゃんだけど、どうやら今回の企画には沿わないらしい。
「美少女に仕える執事みたいな雰囲気にしたいから、ちょっと幼いくらいの子を探してたのよ」
「えぇ、でも」
「いいんじゃない、やれば」
藍ちゃんの無茶振りに目を輝かせるカメラマンを落ち着かせて、とにかく社長を通してくださいと僕は逃げた。
作曲以外で活動する気はないと社長に伝えてこの話を白紙にしよう。
そのつもり、だったんだけど……。


僕の抗議も空しく「面白そう」という理由だけで、二つ返事でその依頼を受けてしまった社長に僕は卒倒しそうになった。
4人にも抗議をしてもらおうと思ったけれど、もともと敵である藍ちゃんに加え、面白いことが大好きな嶺ちゃんは「千晴ちゃんの女装!?見たい見たい〜」と一瞬で寝返った。
ミューちゃんは「早乙女に命令されたのなら従え」とつれなく、一刀両断してくれると思った蘭ちゃんは「お前が女装!?ぶはっ、親父もやるじゃねえか」と何故かノリノリだ。
社長命令なので逆らえるわけもなく、それでもただで引き下がるわけにはいかないと、『男だとバレることはしないこと』、『誰が見ても日高千晴だと気づかないように配慮すること』を条件にこの仕事を呑んだ。
因みに社長には、今後一切メディアに登場しないことを約束させた。


その話し合いが終わった後、部屋で拗ねていると4人が僕の部屋にやってきた。
「みんなは僕の味方だと思ってたのにさ。裏切られた気分」
「人生何事も経験だよ〜?新しい曲のアイディアが生まれるかもしれないしねっ!ほ〜ら、むくれないの!」
嶺ちゃんが膨らんだ僕の頬をつんつんと指す。
「男が一回引き受けたことをうじうじとほじくり返すんじゃねぇ」
「じゃあ今度の蘭ちゃんの曲は、林檎ちゃんが歌ってるみたいな可愛いキラキラの曲にする」
「はぁっ!?ふざけんな、てめぇ」
「蘭丸が裏声使って歌うのとか、想像すらしたくないね」
「藍ちゃんなんか最初に僕を売ったくせに」
「だって千晴の女装はレアでしょ?見たいじゃない」
いけしゃあしゃあと言ってのける藍ちゃんをキッと睨みつける。
「女装の経験でもしておけば、世の女達の求める男性像がわかるのではないか?アイドルの歌う曲の参考になるはずだ」
カミュのフォローになってないフォローに僕は爆発した。

「もういいもん。みんななんか大っ嫌い!!」
ふんっと4人から顔を背けてソファに寝そべった。
みんなは僕の気持ちなんて何もわかっちゃいない。何が楽しくて素人が女装しなきゃなんないんだ。
内輪の罰ゲームならまだしも、れっきとした少女として一生形に残ってしまうメディアに撮られるなんて!
そりゃあ大好きな4人に囲まれて溺愛される構図なんて天国のような状況だけどさ。だからって僕は男だ。女装なんかこれっぽっちもしたくない。

不貞寝の体勢に入った僕の「大っ嫌い」という言葉が効いたのだろう。4人はさっきまでの雰囲気を吹き飛ばして真剣な面持ちで僕の周りを囲んだ。
「「「「千晴(ちゃん)!!」」」」
4人が同時に僕の名前を呼ぶ。でも反応してやんない。
つんとした態度を崩さずにいると、4人は焦ったのか先ほどとは一変して僕の機嫌を取り始めた。
「千晴、お前を傷つけるつもりなど全くなかったのだ。お前の心情を酌まずに浮かれてしまった」
「浮かれたって、どうして?」
ミューちゃんの方を目だけでちらりと窺う。
僕が反応したことに安心したのか、ミューちゃんはホッとした様子で僕の頭を撫でた。
「お前と一緒に仕事ができるんだ。浮かれずにはいられまい?」
慣れた手つきで顔をあげさせられて、ミューちゃんの唇が僕のと重なった。
「んっ、ふぁ」
優しく絡んできた舌が壊れ物を扱うかのように、僕の舌をそっとあやした。



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