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□真琴
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・突発エイプリルフールネタ
・とても短い




「千晴ちゃんってカッコいいよね!」

出会い頭にそう言ったのは渚で、足りない言葉にはてと千晴は首を傾げる。
カッコいいと言ってもらえたのは男としてありがたいが、大勢の生徒と同じように模範的な制服を着ているし、髪型だって特別仕立てたわけでもない。

「?ありがと」
とりあえず褒めてもらったのでお礼を言うと、後ろから追いかけてきた怜はいつもの通りに怒気を含んだ声で渚をたしなめた。
「渚くん!出会う人出会う人、所構わずに嘘を吐くのはやめてください!いくら今日がエイプリルフールだからといって、限度というものが……」
がみがみと怒る怜と、ちょっと迷惑そうに、しかし楽しそうに渚は怜の言葉なんか気にせずに、じゃあねと駆け出して行った。
「あっ!こら!待ってください!」
放っておけばいいものを、怜は渚の後を追ってバタバタと走り出す。


「………渚には、とりあえず悪意のない言葉ほど人を傷つけると言うことを教えないと」

一人ぽつりと取り残された千晴は、カッコいいという言葉が嘘であることを知り、いささか気落ちしながら教室へ戻った。





「千晴?元気ないね、どうしたの」
自分の席に着くと、真琴は千晴の些細な機嫌の変化を読み取って、声を掛けてきた。
「……いや、今日はエイプリルフールだからって渚にグサッとくる嘘を吐かれた……」
別に自分がカッコいいと思ったことはないけれど、男であればそう言って欲しいのだ。
それなのに、カッコいいという言葉が一番遠いであろう渚にそう言われるのは少し癪だ。

「あぁ、エイプリルフールか。すっかり忘れてた」
「だよね。咄嗟にうまい嘘なんて出てこないし、考えてるうちに忘れて気付いたら寝る支度してるっていうのが毎年恒例かな」
「はは、千晴らしい。うちは双子がしょうもない嘘ばっかりつくよ。帰り道でウルトラマンが星に帰るのを見たとか。今日は家に帰ったら嘘合戦だなぁ」
「それ面白そう。明日、どんな嘘を言ったか教えて」

元来、嘘や冗談をあまり言わない二人は、縁側でお茶をすする老夫婦みたいに柔らかく笑うだけだ。



今日は始業式で部活動もないため、二人は帰路に着く。
教室から校門までに眉間に皺を寄せ続けている千晴に、真琴は再度どうかしたかと問う。

「うーん。エイプリルフールってことを思い出したら、一つくらいは嘘ついてみたくなった」
「嘘かぁ……。意外に考えるのは大変かもしれないな」
「人を傷つけない嘘とかないかな」

二人でうんうんと唸りながら考える。
「定番はやっぱり、好きな子に『嫌い』かな」
「でも、僕は嘘でも真琴のこと嫌いなんて言いたくないな」
あっさりと甘い言葉を言い放つ千晴に、真琴は驚いた後すぐに面はゆくなって頬を赤らめた。
「………俺も。千晴が大好き。あっ、これは嘘じゃないから」
「うん、知ってる。エイプリルフールだけど、真琴を好きな気持ちは嘘じゃないよ」

へへ、と照れの混じった笑みをこぼして、二人は人影のない道に進んで手をそっと握り合った。


「あ、そうだ」
「?」
「言う嘘、決めた」
嘘を吐くと宣言したらエイプリルフールの意味がないとは知りつつ、誤解を招くのは本意ではないので先に断りを入れておく。

「いい?」
「いいよ」
「おじいちゃんになっても絶対に一緒に住みません」
ぽろりとこぼした嘘に、真琴は破顔する。
「これから一生、大人になってもずっとずっと真琴にご飯を作りません。一緒に寝ません。キスもしません」
「千晴、」
「はい、嘘おわり」

きゅう、とつないだ手に力を込める。
「僕、朝苦手だから、毎日真琴が起こして」
「……うん。一緒に暮らして、ご飯を作って、一緒のベッドで寝て、たくさんキスしよう」
「本当に?」
「うん、本当。俺不器用だけど、荷物持ちならできるし、電球だって替えるよ」
「真琴は背が高いから便利だろうね」
「千晴のためなら何だって協力する」
「任せたよ、未来の旦那様」
茶化した千晴は背伸びをして真琴の頬に唇を寄せる。


そのほのかな温もりは、千晴と真琴の幸せの形だ。





(君の隣にこうして立つことが出来ていれば、)
(きっとどんな嘘でも幸せに変えられる)


>>>
突発エイプリルフールネタ。午後にエイプリルフールだと気付きました。
エイプリルフールにまとも嘘を吐いた記憶がない……。
ぼんやりしていると気付けば夜中になっちゃいますよね。
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