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□真琴
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「……ごめん、しつこかったな」
「は……んん、へいき」
千晴を甘く蕩かせた後、真琴はそのまま千晴を腕に掻き抱いてベッドに突っ伏した。
さっきまで発火したように熱を帯びていた二人の身体を、冷まさせないというように真琴は後戯を繰り返す。
唇を啄んで、汗で束になっている髪を手櫛で梳かして、その愛おしい存在を最後まで堪能する。
上京してから千晴と同じベッドで眠るようになって(親の手前、寝室は2つあるけれど、片方はほとんど使っていない)、真琴は自分の欲が未だに止まらない事にほとほと呆れていた。
数年前のあの日。千晴が真琴の恋心を叶えてくれたあの日から、真琴は千晴の愛に甘やかされて、包まれて、こうして一緒に居られている。
千晴の身体なんてもうとっくに知り尽くしていて、マンネリになってもおかしくない年月が経っても、真琴はまだ千晴にときめいてばかりだ。

こうして身体を繋げて、後戯やピロートークに初々しさが無くなって。
それでも新鮮な愛でもって千晴を全身で欲しがる。
今日も暴走してしまった、と謝罪の気持ちを込めて後戯を施す真琴に、千晴もくたくたの身体で応えてくれた。

「ほんとに羨ましい筋肉」
「え?でも高校よりかは落ちたはずだけど」
「落ちてこれなのが腹立つ」
うりゃ、と千晴が真琴の腹筋を揉み込むように弄くると、くすぐったさに真琴は笑う。
「あははっ、やめろって」
「筋肉落ちたって言ってるけど、軽いトレーニングしてるくせに」
「トレーニングしても落ちてるから、やっぱり現役の時はそれなりに動いてたんだなって思うよ。それに千晴だって無いわけじゃないだろ、しっかり付いてる」
飽くまでも真琴と同じ水泳部の部員だった訳だから、千晴だってそれなりの筋肉はついているのだ。

「同じ部活やってたのにこんなに差が出るなんて、複雑」
「俺が筋肉付きやすい体質ってだけだよ。でもあんまり筋肉付けすぎると、トレーニング止めた後に脂肪になりやすそうなのが不安だよなぁ」
「筋肉付きやすい体質だったら、ちょっと運動すればすぐ筋肉になるよ」
「じゃあ千晴に飽きられなくてすむかな」
「別に真琴の身体目当てじゃないからね、飽きたりはしないけど」

軽い口調で真琴を口説き落とすのはやめてほしい。
ならばどこが好きなのと聞いてしまいたいが、それを聞いたらまた素直な身体が千晴を求めてしまうに違いないから、次の機会に聞こうと思い直した。

「あ、真琴のでれでれ顔」
「千晴が嬉しいこと言うからだろぉ」
「だって本当のことだしね」
「そういうとこが、……っあ〜〜、もう!」
身体を繋げられない分、これでも食らえ!と真琴は千晴の唇にかぶりついた。
その行動を見越していたのだろうか、千晴もすんなりと真琴のキスを受け入れた。
はむはむと千晴の唇を甘噛みして、千晴に対抗する。
自分だってこんなに千晴を愛しているんだってことをぶつけるかのように。

「大好き」
「おれも……。真琴のことが大好きだ」
「明日も明後日も、何十年後もずっと」
「あはは。うん、信じてる」
「本当?」
「他の人だったら信じないけど、真琴はずっと証明してくれてるから」
そうだ、真琴はいつだって千晴に気持ちを傾けてくれていた。
喧嘩したってしょんぼりと謝って来たり、言葉でも行動でも気持ちを表して伝えてくれている。

そんな「当たり前」を毎日積み上げられては、疑いたくても疑いようが無い。疑うだけ時間の無駄だ。
それならば、自分も真琴に大好きを伝える方がよっぽど建設的で幸せだと、千晴は身を以て知ってしまっている。

「信じさせてくれてるのは、真琴なんだ」
「俺?」
「そう。おれが真琴に素っ気なくできるのも、真琴が信じさせてくれてるからなんだよ」
「へへ、そうか。……って、素っ気ないの自覚あったの!?」
「あ、今の聞かなかったことにして」
「千晴っ!」
また情けない声で真琴がきゃんきゃんと喚く。

こうやって冗談を言えるのだって、真琴が千晴を嫌いにならないと知っているからなのだ。

「ふふ、幸せ」
「千晴?」
「こうして冗談言ってさ、真琴が笑ったり困ったりしてるの見るのが嬉しい」
「何だよそれ……。千晴がたまに意地悪になるのってそういう事だったのかぁ」
「嫌いになった?」
「なるわけないだろっ」
「ふふふ、知ってるよ」

真琴の頬に千晴が口づけると、それだけで真琴はふにゃりと表情を崩す。

「千晴、」
真琴が千晴の名前を呼ぶと、千晴は言葉の意味を正しく理解して、真琴が差しだした腕に頭を乗せて、真琴の厚い胸板に顔を埋める。

言葉と違わず幸せそうに真琴の胸に寄りかかる千晴を見て、不意にあの夏の縁側を思い出した。
あの時の真琴は、今こうして千晴を自分の腕に迎え入れることを想像だにしていなかっただろう。
それはあくまで妄想の範疇で、それが叶う可能性など万に一つもないと思い込んでいたのだ。
その想いをあっさり見破られていることなど知らずに、叶わぬ恋に身を焦がしていた。
それも今となっては良い思い出だ。
もう千晴が女の子に腕枕をしている想像がつかない。
千晴の傍に居るのは自分だという自負と、その未来が見える。


「真琴って腕枕するの好きだよね」
「そうか?」
「絶対そう」
「好きだけど、」
そうだ、あの夏の縁側でも自分は気持ちを昂ぶらせて千晴の頭の重みを感じていた。
「真琴?」
「……恋人の特権だから、したいんだ」
あの時と気持ちがシンクロするようだ。
している事は同じでも、心持ちも気持ちも何もかもが違う。
同じなのは、真琴がいつまでも千晴が大好きで、この距離で千晴の顔を何度見ても飽きることなどないということだ。

「……もっと早く言えば良かったかな」
「え?」
「おれ、真琴と両想いってずっと前からわかってたのに、それだけで満足してて。いつか恋人になれたら良いやって思ってたんだけど、真琴にその分だけ苦しい思いたくさんさせてたかな?って」
そんなこと今更言っても意味ないってわかってるけどさ、と千晴は苦く笑った。
千晴にそこまで思わせてしまった、と胸がきゅうっと締まる。
千晴が気に病むことなどひとつもなくて、真琴にとってはあれが始まりで良かったと心の底から思っている。
そう告げようと、千晴の名前を呼ぶと。

「千晴……」
「そうしたら、真琴もコソコソしながらおれに腕枕しなくて済んだのにさ」
「……え?」
「おれが少しでも身じろいだらパッと腕しまっちゃうから」
「ええと、千晴?」
「うん?」
「コソコソって?」
「付き合う前の夏、真琴よく寝てるおれに腕枕してたでしょ」
「えぇっ!?お、起きてたのっ!?」

思わず腹から声を出してしまって、千晴は顔を顰めた。
でも真琴はそれどころではない。
淡い、自分だけの心に留め置いていたことが、まさか本人に気づかれていたなんて。

「さすがに頭動かされたら起きるよ。でも真琴の腕枕好きだったから、またすぐ寝ちゃってたけど」
「い、いつから……!?」
「え?いつからは覚えてないけど……。遙が料理作ってる音で起きたのが最初かな?」
いつだ、と脳内で必死に記憶を巡らせるが、つい先ほど思い出した、初めて腕枕をした時のことばかりが脳裏を駆け巡る。

「何で言ってくれないんだよぉ……」
「だってあんなに必死に隠されたら、誰だって言えないよ。気づいてるの伝えたらその場で投身自殺しそうだったし」
「た、確かに……」

真琴にとって千晴に恋するのは当然で、でもそれは誰にも知られてはいけない秘密の恋だった。
「まあでも、最終的にこうなってるわけだし、良いってことにしようか」
千晴が腕枕をしていない方の真琴の手をにぎにぎしながら、面映ゆそうに言う。

「うぅ……恥ずかしすぎて無理だ」
「恥ずかしくない。嬉しかったんだって、おれは」
「千晴がそう言うなら良いけど……」
「おれが良いって言うんだから良いの。わかった?」
「うん……はい」
「それに……恋人の特権っていうんだったら、腕枕なんかよりよっぽどスゴいことしてるんだからさ」
少し頬を染めながら、千晴がぼそりと呟く。
そうだ、自分たちは腕枕よりもすごく恋人らしいことを、ついさっきまで……。
今更顔を赤くした真琴を見て、千晴がくすくすと笑う。


「あ、もしかしてあの時も腕枕よりスゴいことしてたりした?」
「し、してないっ!」
「なぁんだ、つまんないの」
「千晴!?」
「あはは、冗談冗談」
「もう、からかってるだろ!」

千晴に振り回されている真琴は、ならば恋人らしいことをしてやろうじゃないかと、千晴の身体に覆い被さった。
「え、まこと?」
「恋人だから、もっとスゴいことして良いだろ?」
「あっ、や、もう無理だからっ」
「千晴のこと大好きだから我慢できない」
「だからって……、ふぁ!」
臍の窪みをくりくりと苛めると、千晴は目を丸めて声を上げた。

その表情も、甘い唇も、魅力的な身体も、全て全てちょうだいと、今まで真琴しか知らない可愛い唇を舐め上げて、食らい付いた。


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超至近距離恋愛シリーズの二人のいちゃつきは如何でしたでしょうか。
久々に付き合う前のもだもだを入れられて楽しかったです。

普段はあまり具体的な時期を特定できるような描写はしないようにしているのですが(イベント系や季節は除く)、このシリーズは長く書いている為、最近は時系列が少しずつ具体的になってきました。
前は、二人がくっつくのは中学時代で、高校の時にはすでにバカップルになってる感じをふわっと考えていたのですが、「めばえ」を書いているうちに気づいたら高2の晩春以降になっていました。
(怜ちゃんがミーティングに参加しているので、早くてもそれ以降じゃないと辻褄が合わなくなるため)

今作は付き合う前の夏というかなりニッチな時期にスポットを当ててしまったので、書く時に前作を振り返って書いてみました。
ここまでシリーズが続くと思っていなかったので、こういうことも新鮮で、調べたり書いたりするのも含め、楽しく作業させて頂きました。
(怜ちゃんが入部したのって県大会の1週間前くらいらしいですね!ほぼ夏じゃないですか!びっくり!)

皆様に愛されているおかげでここまで続けられております!
またこの二人のお話はちょくちょく続くと思いますので、引き続きご愛顧くださいませ。

最後になりましたが、れん様、腕枕という萌え仕草のリクエストありがとうございました!
ぜひまたご参加下さいね!ありがとうございました!
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