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□真琴
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・にゃーにゃー言ってます
・真琴くんが悶々としてばかり。ちょっとギャグちっくに寄せてみました。



真琴がバイトから帰宅してリビングに着くと、千晴の腕には黒い毛玉が乗っかっていた。
「お帰り」
「ただいま。あれ、今日からだっけ?」
「うん、1時間くらい前に預かった」
「寝てる?」
「ん?どうだろう、目は瞑ってるけど」
黒い毛玉―……猫の顔を見て、千晴はめろめろと目尻を蕩かせた。

預かったという言葉の通り、この猫は千晴と真琴の飼い猫ではない。
千晴の大学の先輩が1週間のインターンのため県外へ越境するらしく、預かってほしいと頼まれたのだ。
よくその先輩の家に遊びに行っていた千晴は猫に懐かれていたので、こうして頼まれたのだという。
「にゃーさん、真琴だよ」
体勢を変えるように千晴が猫をひょいと掲げると、猫は迷惑そうにあくびを一つして前足を舐めた。
「にゃーさんって名前なのか?」
「いや、おれがにゃーさんって呼んでるだけ。そうだよねー、にゃーさん」
動物に話しかける時の千晴は、少し甘ったるい話し方になるようだ。
「お、真琴のこと気になる?」
くんくんと真琴の方に鼻を向けるので、真琴も指をそっと鼻先に近づけた。
「あ、舐めた」
嬉しそうに千晴が言う。猫のさりさりとした舌に舐められるとちょっとゾワッとするけど、可愛らしい事に変わりはない。
これでも真琴は岩鳶に居た時は猫に結構モテていたのだ。
千晴もそれを覚えているのだろう、真琴に遠慮なく猫を渡してくる。
まったく初対面の猫を抱いたことが無かったので少しビクついたが、猫は慣れているのか全く頓着せずに真琴の大きな腕に身を委ねていた。

「可愛いなぁ」
「うん、可愛い」
二人でデレデレと猫を構っていたが、本格的に寝始めた猫をベッドに戻して自分たちもそれぞれ眠る準備に入った。
明日は休日だ。そして二人ともバイトが無い。
思う存分いちゃつこうとにやけながら、真琴は千晴を抱きしめながら寝た。




カーテンの隙間から差し込む光で目が覚めた。
けれどまだ眠りの淵を彷徨っている真琴は、二度寝しようかと愛しい身体を引き寄せた。
引き寄せた、はずだったのだが。
隣に伸ばした腕は何も捕えられなかった。
ごそごそとシーツを掻き分けたが、質量もなければ熱量もない。

「……千晴?」
掠れた声を投げかけたが、返事はなかった。
ぱっちりと目を開けて起き上がり、辺りを見回してみたが寝室には真琴しか居なかった。

「千晴」
パジャマのままリビングに出ると、千晴は地べたに寝そべっていた。
「あ、おはよう」
「おはよう、どうして寝てるんだ?」
「ご飯の時間だから、にゃーさんにエサあげてた」
エサ皿の前に陣取って、食べている様子をずっと観察していたらしい。
気にせずカリカリを咀嚼する猫は、綺麗に皿を舐め終えてピチャピチャと小さな舌で水を飲んでいる。

「にゃーさん、美味しかった?」
なぁん、と猫が返事をするように鳴いた。
「そっかそっか」
締まらない笑みで猫の頭を撫でる千晴を見て、真琴は面白くない気分になる。
この気持ちは知っている。あの犬が千晴をベロベロと舐め回して、それを千晴がくすぐったそうに受け入れていた時と同じ気持ちだ。
今日は折角の二人のオフ日で、昨日はすぐに寝てしまったから今日は朝からいちゃいちゃしようと思っていたのに。
ベッドの中でまさしく今のように、真琴が千晴の顎下をくるくると撫でたり髪をくしゃりとする筈だったのに。
むくれる真琴を構いもせず、千晴は猫に夢中だ。

「ほら、真琴」
猫を真琴の方に向けて抱きしめて、片方の手で猫の前足を取った千晴は、
「にゃーさんが『ご飯美味しかったにゃー』って」
猫のアテレコをするかのように前足で空気を掻く仕草をしながら、千晴は楽しそうに言った。

「可愛すぎる……っ!!!」
わざとなのか天然なのかはわからないが、猫語で話している恋人に胸が撃ち抜かれた。
朝からいきなり超弩級の胸の高鳴りが真琴を苦しめる。それは萌えとかトキメキとか可愛らしいワードでは片づけられない程だ。
死因:千晴、とでも書けそうなくらいに、恋人の愛くるしい様に息が苦しくなる。


「え、真琴ってそういう性癖だったっけ……?」
おれの知らない真琴が……と目を瞠る千晴に、真琴は勘違いだと首を振る。
「千晴が、可愛い事言うからだろっ。誰にでもときめく訳じゃないからな!?」
真琴は千晴に関しては箍が外れることは千晴も重々知っているので、「なんだ」とつまらなそうだ。

「ほら、にゃーさんが真琴の腕で寝たいって言ってる」
「寝たいにゃーって言ってくれないの?」
口を尖らせていう真琴に、やっぱりそういう性癖なんじゃ……と白い目を向ける。
いやでも、真琴の猫語って可愛い。雰囲気は犬なのに語尾が猫ってのが可愛いな。
真剣な顔でそう思う思っている千晴も、実は真琴と同じくらいの面倒な熱量を持っている。
まったく傍迷惑なカップルだ。
たぶんここに遙や凛が居れば勝手にやってろと盛大なため息を吐くだろうが、ここには誰も居ないのでそれを指摘する声はついぞ上がらなかった。

「にゃーさんだっこする?」
「千晴がそのまま持ってて。俺は、」
真琴が千晴の腰に腕を回して、自分ごと背面からソファにダイブした。
「わっ!?」
猫は突然の衝撃に千晴の腕から逃げ出す。
鈍い音を立ててソファに座りこめば、真琴は楽しそうな声を上げた。
「ちょ、真琴!ソファ壊れたらどうすん……っ」
顎を掬い取られ、真琴の唇が千晴のそれと重なる。
唇だけの可愛らしい睦み合いだ。
くっついたり離れたりを繰り返して、甘やかな吐息が二人の間で交わされる。

「猫も可愛いけど、千晴のこと抱っこしたいな」
ぽそぽそと耳元で囁けば、千晴は少し迷った素振りを見せた。
それでも瞳がうるうると輝いて蕩けているから、決して嫌ではないのだろうというのが見て取れる。
「朝からこんなの」とか、「でもせっかくの休みだし」とか色々なことが頭に浮かんでいるのだろう。

「千晴……」
切なそうな声音でぎゅうと抱きしめられれば、千晴はあまり強く否を言えない。
無意識にそれを嗅ぎ取っているのか、真琴は鼻先を千晴のうなじに摺り寄せて甘えてきた。
大きな犬にこうして甘えられるのは吝かではない。
千晴が動物を好きなのは、真琴の犬気質に起因しているのではないかと思う程だ。
小さい頃はくりんくりんの大きな瞳に涙をいっぱい溜めては、きゅんきゅんと寂しがる犬の如く千晴の周りをついて回っていた。
一緒に遊ぼうと手を引けば、へにゃりと満開の笑みを見せてくれた。
自分の行動に一喜一憂する真琴が可愛らしくて、ついつい世話をしてしまう。
猫はひとりでも生きていけるが、犬はやはり誰かに構われないと生きていけないのだ。
そして千晴は、そんな手のかかる犬の方が可愛いと思ってしまうのである。


「……抱っこしていいよ」
もう既にその体勢になっているのだが、真琴は千晴のお許しに喜色を湛えて花を飛ばした。
横抱きするような体勢に変えて、千晴は真琴の大きな胸板に頭を預ける。
「猫も可愛いけど、やっぱり犬派かな」
「えっ、猫だけじゃなくて犬も預かるの?俺の千晴なのに……」
動物に嫉妬する真琴が勝手に勘違いをして勝手に落ち込んでいる。
「犬はほら、もう充分間に合ってるし」
軽く真琴の鼻をつまんでやると、意味を理解して眉尻を下げた。
「だから、俺は犬じゃないってば!」
「人間は動物に嫉妬しないでしょ」
「人間だって動物だから嫉妬するだろ?」
「屁理屈だ」
「千晴だから嫉妬するんだよ」
「……ふぅん」
言葉でも身体でも愛情を表現されて、嬉しくないはずがない。
そっけない言い方をしているのは、照れが先に立ってしまったからだ。
そういえば「犬の誠くん」の時もこんな風に嫉妬していたっけ。それが嬉しくて、つい張り切ってしまったのを千晴は思い出した。


自分たちは似たような事をやって似たように愛を確かめているのだと気づけば、何だか気恥ずかしい。
下らないと一蹴されてしまうであろうやり取りは、しかしこの二人には必要なことで。
多分ずっと、このループの中に居るのだろう。きっとそうやってお互いの愛情をずっとずっと確かめ続けるのだ。


真琴が頬に唇を寄せてくる。
顔を真琴の方に向けてやれば、すぐに赤い唇を食まれた。
はむはむと千晴の唇の弾力を堪能してから、にゅるりと舌を進入させる。
とろりとした甘い舌が縋るように絡みついてきて、真琴は嬉しさのあまりがっついてしまった。
「んぅ……っは」
角度を変えて何度も繋がっては途切れ、息が上がっていく。
「ん、まこと……」
舌っ足らずな声で名前が紡がれて、むくむくと欲が起き上がるのがわかる。
「千晴……」
性急に真琴が千晴の首筋に鼻を押し当て、ちゅるっと吸い付いた。
「あっ、跡はダメだって……」
「付けるほど強く吸ってないよ」
いつも千晴に、見える場所に跡を付けるなと叱られているからか、真琴もようやく加減を覚えたようだ。
そう言われてしまえば拒む理由などなくて、千晴は静かに目を瞑った。


「ふみゃぁ」
聞こえたか細い鳴き声に、真琴の手が止まる。
ソファに乗りたいようで、前足をソファに掛けながらカリカリと爪で引っ掻いて催促している。
「あ、にゃーさん……」
千晴を見ながら尚もにゃあにゃあと鳴くものだから、千晴は気まずくなって真琴を見上げた。
「千晴……」
行為が途中で止まったからか、千晴が猫の方に行ってしまうことを危惧したからか、真琴は眉を下げて千晴の名前を悲しげに呼んだ。
まさに前門の猫、後門の犬である。


「真琴、ちょっと」
「……うん」
やはり猫には勝てないか、と真琴が千晴に覆い被さっていた身体を退ける。
「にゃーさん、ごめんね。今日は久しぶりに真琴とゆっくりできる日だから、また後で遊ぼうね」
「へっ」
予想外の言葉に、とんちきな声を上げる真琴。
千晴は猫を腕に抱えて撫でながらも、ケージに入れた。
そしてケージに布を掛けて中を暗くする。


ソファに戻ってきた千晴は、真琴のだらしのない顔を見て眉をひそめた。
「なに、その顔」
「千晴っ」
「うわっ」
がばりと千晴を改めて組み敷いた真琴は、ちゅっちゅっと千晴の顔にキスの雨を降らせた。
「好きだ、大好き」
「んっ、わ、なに」
ぎゅーっと千晴を抱きしめて、ぐりぐりと頭を千晴の首筋に押しつけた。
猫ではなく自分を選んでくれたのが嬉しいという感情が手に取るように解る。
「犬の時もそうだったよな。真琴って、動物に負けてると思ってない?」
「えっ……お、思ってはないけど、」
「おれが真琴より猫を優先すると思ってるんじゃないの」
「思ってないよ!」
慌てて手を振る真琴の頬を、千晴は両手で挟んだ。
唇を突き出すような形になった真琴の顔が面白くて、千晴はつい吹き出す。

「もう、千晴……」
情けない声を出す真琴の唇にそのまま吸い付く。
そのままの勢いで真琴の口内に進入してやると、熱い粘膜に迎え入れられた。
千晴が夢中になって真琴の舌を舐めて愛撫すれば、真琴のスイッチがまた入ったのがわかった。
千晴の舌を押し返すようにして引き離せば、真琴はシャチのような獰猛さで千晴を視線で射止める。
一気に捕食者になった千晴は、コクリと喉を震わせた。

「おれの一番が真琴だってちゃんと分かったら、ベッドに連れてって」
間髪を入れずに千晴の身体が浮いて、千晴はにやける頬を抑えることもせずに真琴の首に腕を回したのだった。

>>>
可愛らしいお話にしようと思ったら、真琴くんがシャチになってしまいました〜。
ナンテンの花言葉は、「私の愛は増すばかり」。この二人にぴったりの花言葉ですね!

れん様、企画へのご参加ありがとうございました!
真琴くんのシリーズも、また機会があれば更新いたしますので、その際は是非ご覧ください!

また、真澄くんの作品に対するご感想もありがとうございます。
小躍りしながら読ませて頂きました。
真澄の主人公大好き具合は書いていて楽しいです!
図らずもれん様の夢をお手伝いできたようで、嬉しいです(笑)
真澄くん熱はまだまだ冷めませんので、また更新したらご覧頂けたら嬉しいです!
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