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□utpr
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「千晴、いつになったら頷いてくれるのだ」
「は?いつも何も、そんなの一生来ない」
「本当に素直じゃないな……」
「おれがお前に素直だったことなんてねえし!っていうか、名前で呼ぶな!」
猫であれば毛を逆立てているであろう千晴の反抗にも、真斗は動じない。

「婚約者を名前で呼んで何が悪い」
「だーかーらー!そんなのじーさん同士が勝手に決めたことで、そんなくだらない口約束を真面目に取り合うお前の頭がおかしいんだよっ」
「忘れたとは言わせんぞ。五歳の俺の誕生パーティーで、俺と結婚すると誓ったのは紛れもなくお前だ、千晴」
「だからあれは、よくわかんないまま母親に頷けって言われたから頷いただけで……」
「それでも頷いたのは事実だ」
「五歳児が全部の事情を飲み込んだ上で喜んで婿入りするとか誓う訳ないだろ!後でオモチャ買ってくれるっていうから頷いただけだっての」
「俺は全て理解した上で、あの時お前に結婚を申し込んだのだぞ」
「何だその五歳児、怖っ!あーもー、とにかくおれはお前なんか嫌いだから!絶対に結婚もしないし、オトモダチにもなんないからな!」
ズビシッ、と真斗の鼻先に指を突きつけた。

「嫌いならば、どうしてここに居るんだ」
「母さんに嵌められたんだよ!人気のバイキングに連れて行ってくれるって言うから楽しみにしてたのに……騙された」
その悔しさも相まって真斗に八つ当たりしているのだろう。
真斗が千晴とデートしたいけれど、千晴の好きそうな場所の見当がつかないと千晴の母親に零したところ、それならとセッティングされたのがこの茶会だ。
茶会とはいえ、少々早いアフタヌーンティーだが。

「……この量、お前食えないだろ。お前と一緒の空間に居たくもないけど、料理とお茶に罪はない。……んぐ、んまい」
千晴は下に置いてあるサンドイッチを2つ一緒に口に入れると、もごもごと感想を言う。
真斗と一緒の空間に居たくないなんて言うくせに、こうして他の人や物を思い遣れるのが千晴の良いところで、真斗の思う千晴の長所だ。

「こうでもしないと、お前は俺と話してもくれないからな」
「あったりまえだろ。ていうか、そろそろ諦めろよな」
「俺は約束を違えない男だ」
「〜〜……!だからっ」
堂々巡りの会話にさすがに千晴も痺れを切らしたのか、椅子を蹴って立ち上がった。
しかし、運が悪く千晴の携帯に着信が入る。

「ったく、誰だ……あ、レンだ」
ピクリ、真斗の眉が跳ね上がる。
「はいはい、どした?……あーうん、暇。ご飯は今食べてるけど……うん」
真斗の存在なんか無かったように、千晴はレンとの会話を楽しんでいる。
屈託無く笑ったり、素直に頷いたり。
それは真斗に見せることのない顔で。
千晴が納得していないとはいえ、これは真斗と千晴の逢い引きなのだ。
それを無粋な電話で邪魔をされ、しかもそれが神宮寺レンとくれば、真斗も気分を害した。

「あ、そしたらこっちの方まで迎えに来てくんない?うん、その間に食べ終えておく。……うん、わかった。はーい、じゃな」
蹴り倒した椅子を自分で直した千晴は、またサンドイッチをつまんだ。

「あ、この組み合わせ良いかも。うちのシェフに作ってもらお」
千晴は暢気に一人でアフタヌーンティーを楽しんでいる。
きっちりと半分食べた千晴は、次いでケーキに手を伸ばす。
「んー、このワイルドベリーのケーキいけるな。こっちのシュークリームも甘すぎなくて良い感じ」
千晴は甘味が好きだ。それもあってアフタヌーンティーを選んだのだ。
ひょいひょいと菓子を消費していく健啖ぶりに、真斗はつい見惚れる。
大きな口でバクリと頬張り、もぐもぐと咀嚼してゴクリと喉を鳴らして飲み込む。
口直しに紅茶を嚥下する時に喉仏が上下に動くのもセクシーだ。

「紅茶お代わり」
すぐ近くに控えていた店員が、スッと寄ってきて新しいポットを置いた。
「紅茶も美味いな。何の茶葉?」
「数種類の茶葉をブレンドしております。セカンドフラッシュのため、茶葉特有の香りや味が楽しめます」
「へぇ、ストレートよりミルク入れた方がやっぱり良い?」
「ミルクティー用にブレンドされておりますので、この紅茶にはミルクが合います。宜しければストレート用のポットをお持ちいたしましょうか?」
「あ、もうすぐ出るからいいや。ありがとう」
「ごゆっくりお寛ぎください」
丁寧に頭を下げて退出した使用人とも楽しそうに会話をしていた。
真斗にはしかめっ面ばかり見せているのに。


真斗が悶々としている間にも千晴はどんどんと自分側にある料理を平らげていく。
遂にスコーンにまで辿り着いて、ジャムとクロテッドクリームをたっぷりと塗って齧り付いているではないか。

「千晴」
「あんだよ」
名前で呼ぶなと言っておいて、呼べば返事をするのだから育ちの良さが窺える。
きっと千晴がそんな態度を取るのは真斗にだけだ。

「……好きだ」
「だから、おれは嫌いだって」
「千晴が、好きなんだ」
真斗の真剣な声音に、千晴は手を止める。
「俺の何が足りない?直せるところがあるなら直すから、言ってくれ。どうすればお前に好かれることができる?」
千晴の答えも聞かず、真斗は言葉を続ける。
「神宮寺は良くて俺が駄目な理由は何だ?生理的に受け付けないか?存在が気にくわないか?俺は千晴に何か嫌われることをしたのか?」
「ちょ、そんな矢継ぎ早に言われても、」

今までに無い事態に千晴が目を白黒させる。
「俺の気持ちを、受け取ってくれないか……?」
「っ、あ」
千晴が何か言おうと口を開こうとすると、また着信音が鳴った。
レンから到着したとの連絡だろう。
迷うそぶりを見せたものの、千晴は立ち上がった。

「千晴!」
真斗も立ち上がり、千晴の腕を掴んで引き寄せた。
「他の男の元へ行かせたくない。俺を選んでくれないか……頼む、千晴」
後ろから抱きしめる形での抱擁に、千晴は混乱した。
すり寄ってくる真斗の顔は千晴の耳に近く、呼吸の音が伝わってきてしまう。
存外、拘束力の強い腕に捕らわれ、そこから真斗の香りが漂ってきた。
自分の置かれている状況が客観的に掴めない。
どうして自分は真斗に抱き締められているのか……。
いつものように振り切ってしまえば良い、と冷静な自分が伝えてくる。

「千晴……」
熱い真斗の呼気が耳にぶつかる。
頭より身体が先に反応して振り返ったら、真斗の唇が千晴の頬にぶつかった。
驚いた真斗が腕の力を緩めたのをこれ幸いと、千晴は真斗の腕から抜け出して、瞬時に走り去った。
「千晴!」
焦った真斗の声が遠く聞こえる。
それすらも振り払って、千晴は店の入り口の扉を開ける。


「やあ、迎えに来たよ」
レンが店の前に車を停めており、半分ほど開いたパワーウィンドウ越しにウィンクをしてきた。
「……千晴?どうかしたのかい、顔が真っ赤だけど」
「へっ?」
「それに耳を押さえて、どうしたの」
「えっと、」

レンに問われて、自問自答する。
そうだ、どうしておれは。
「っ、何でもない、車出して」
後部座席のドアを開けて中に入ると、レンはバックミラー越しに千晴を見た。

「まさか、聖川が辛抱たまらず襲ってきたとか?」
「えっ、どうして、」
「ワオ、図星?当てずっぽうだったんだけどね」
「あっ、ち、ちがっ……!」
ぷしゅう、と茹で蛸になる千晴に、レンは「そういうことにしておいてあげるよ」と苦笑した。

>>>
素直じゃない主人公、如何でしたでしょうか?
久しぶりにぶっきらぼうな主人公を書けて楽しかったです!
黄色い薔薇=嫉妬、ということで真斗さんに嫉妬してもらいました。

恋愛未満の二人がどうなるかはご想像にお任せいたします〜。

ゆみ様、リクエストありがとうございました!
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