zz

□藍
4ページ/7ページ

熱を持って赤く染まった肌に唇を落としていく。
律動を再開させると、薄い千晴の唇から意味を為さない快感に染まった音がぽろぽろこぼれる。
「っあ、ひっ、やぁ……」
ん、と堪えるように下唇を噛むものだから、やめさせようと唇に指を這わせる。

「……ん?ん?」
何を思ったのかボクの指を口に含んだ千晴は、噛むと思いきや巧みに舌を使って指を愛撫しはじめた。
潤んだ瞳でボクの指を懸命に舐める姿はどうしようもなく煽情的だ。

「イクよ」
「んん、んぅ……」
こくこくと頷きながら、ボクが与える快感に身を捩らせて感じ入る千晴。

「っ、たまんない……ッ」
やや強引な抽挿で攻め立てると、
「ふぁ、んんーーーー………!」
きゅっと身体を縮こませてボクの指をくわえたまま千晴は欲を吐き出した。
「っく、」
ボクも数拍遅れて達する。


「藍ちゃん……好き」
とろんととろけきった瞳で愛を囁かれ、ボクも応えるようにキスをいくつも落とした。

◇◆◇

愛を交わした後、ボクはいつも千晴を抱きしめて眠る。
じんわりと肌から伝わる千晴の体温をボクに馴染ませるように、さらりと心地よい肌を抱え込む。
千晴が眠ったのを確認してから眠るつもりだったけれど、千晴が眠る気配はない。
少し時間が経って、千晴がボクの腕からするりと抜けた。
トイレにでも行ったのだろうか、と寝たふりをしながら千晴の後姿を目で追う。



……
………

遅い。
さすがに遅すぎる。

何をしているのか気になって、音も立てずに寝室のドアを開いて様子を伺う。


窓が開いてはためいているカーテンからチラチラと月の光が漏れている。
風に乗って小さく聞こえてくるのは、頼りない歌声だった。
曲を作る者としては完璧な音感で美しいメロディーを口ずさむものの、歌い慣れていないせいで掠れて出なかったり声の大きさがまばらだ。
声量の問題もあって途切れ途切れになる不恰好な歌だというのに、ボクはその音に心を掴まれていた。


「stello……くしゅっ」
夏とはいえ、シャツ一枚では夜風を防げなかったのだろう。
「千晴、いつまでも外に居たら風邪を引くよ」
「あ、藍ちゃ……」
ボクの登場に目を白黒させた千晴は、ばつが悪そうに「……聞いてたの?」と頭を掻いた。
「千晴がなかなか寝ないから気になっただけだよ。……ほら、風邪引くから中に入って」
「大丈夫だよ。今まで風邪引いたことないし」
「今まで?いつもこうやってベランダに出て歌ってたの?」
「あ、ええと、それは」
ずっと腕に抱いて眠っていたと思っていたそれが、現実ではないことに少なからず動揺した。
千晴は何を思ってボクの腕から抜け出し、頼りない歌を口ずさみ、ボクの腕に帰ってきているのか。

「なんか、ずっとふわふわしてるんだ」
唐突すぎる言葉に意味が把握できず、首を傾げる。
「藍ちゃんに大事に大事に愛されて、怖いくらいの快感に流されて……心がざわざわして、ふわふわして、落ち着かなくて」
それで、夜風に当たってみたらストンと気持ちが楽になったと千晴は笑った。
「手持ち無沙汰でなんとなく歌ったりとかしただけ」
下手な歌聞かれちゃった、と照れる千晴は月明かりに照らされてほの白い。

「……もう一回歌って」
「え?」
「さっきの歌、悪くなかった」
「やだ、恥ずかしい」
そっぽを向いた千晴を背中から抱きしめて、お願いと耳元に囁く。
ふっくりと膨れた千晴は、しかし素直にか細い声で旋律を奏で始めた。

技巧も何もない歌声は澄んで響き、夜にとけていく。
一度でメロディーを覚えていたボクは、記憶にあるところから一緒に声を重ねていった。
驚きに目を瞠る千晴に柔らかく笑って見せると、千晴は三日月みたいに目を細めてボクの歌に耳を傾けた。


"Gi estas kiel la kanto.
Bella kanto de felicio."


「……うん、やっぱり藍ちゃんが歌うほうが好きだな。透明感があって、純粋で、胸にスーッて入ってくる」
「ボクは千晴のが好きだよ」
「なに言ってんの」
くすくす笑う千晴の肌はしっとりと冷たい。
「さ、そろそろ本当に戻ろう」
腕を少し強く引くと千晴はあっさりと柵から離れた。
ベッドに戻って、千晴の身体を温めるために抱き込む。
「いつも、セックスの後こうして抜け出してた?」
「う……だって藍ちゃんの顔見たら恥ずかしくて余計熱上がる……!」
肯定の言葉に、そんなことを気づきもしなかった自分が腹立たしい。


「じゃ、こうして顔が見えないようにして、歌ってあげる」
「え?」
「眠れないなら、ボクが子守唄を歌ってあげるから。……だから、」
ずっとこの腕に包まれていてほしい。その体温を分けてほしい。
熱なんか冷まさないで。ずっとその胸で灯り続けていてほしい。

こんなことを言ったら、ボクらしくないと笑われるだろうか。
「ここに居て。ボクに抱かれて」
おやすみ、とまろい額に口付けて小さな声でボクは愛を歌う。

(君の心を動かす全てが、ボクのせいでありたい)
(情熱も、愛情も、安心も、この身体ひとつで捧げるから)

>>>
セレナーデ(小夜曲)のはずが、ララバイ(子守唄)になってしまいました……。
セレナーデの意味を調べたら、夕べに愛する人の窓下で歌う歌と書いてあったので、そんなイメージで書いたらこんなものに。
藍ちゃんの歌を聞きながら眠れたら贅沢ですね〜。

作中で使われているのはAR.IAの歌です。とても良い歌なので機会があれば聞いてみてください〜。

藍ちゃんをリクエストしていただき、ありがとうございました!
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ