zz

□那月
1ページ/2ページ


昼休み、お昼を食べた後に他愛ない会話をしている最中に本題を思い出した。
「あ、そうだ。那月、今日良いもの用意したから俺の部屋こない?」
「はい、ぜひ!ふふ、良いものって何だろう」

身長は高くて男らしいのにこうして無邪気にキラキラと目を輝かすさまを見ていると、どうしても可愛いなと思ってしまう。
恋人の欲目というのも十分含まれているとは思うけどね。

「それで、もし良かったらそのまま部屋に泊まっていきなよ」
「お泊まりですかっ!?嬉しいです!じゃあピヨちゃんのぬいぐるみを持って行きますね!もちろん、千晴くんにはうさちゃんのぬいぐるみを用意します」
「あはは、うん。ありがとう。夕飯と風呂が済んだらメールして。それまでに俺も準備しとくから」
「楽しみにしています」


じゃあ、とそれぞれのクラスに戻って授業を受けた。
今日は6月8日だ。つまり、明日は那月の誕生日。

一応ちゃんとプレゼントは用意してある。
それでもまだ足りないような気がして、俺は他にある物を準備していた。

予定になかったお泊まりも出来ることだし、那月に誰よりも先におめでとうって言ってあげるんだ!


夜のあれこれを考えているうちに授業は終わっていて、俺は練習もそこそこに部屋へと戻った。



「うん、よし。準備完了!」
失敗したくないという思いから事前に準備していたこともあって、今日の準備は30分もかからずに終えてしまっていた。

「風呂も先に入るか」
別に不埒なことを考えているわけじゃないけれど、入念に身体を洗ってじっくりと湯船につかった。
備えあれば憂いなしっていうしな、うん。

それから夕飯を済ませて、あとは那月からの連絡を待つだけだ。


「あー、緊張してきた……那月、まだかな」
ドキドキしながら携帯を片手にベッドに寝転がる。
うまくいくかどうか不安なのと、那月は喜んでくれるだろうという期待がせめぎ合っている。


いろんなところがうずうずして落ち着かない。
落ち着けと目を瞑って心を静めようとしていると、うとうとしてきた。
って、寝るわけにはいかないんだって!

しょうがない、ストレッチでもするか。
どうせ今、課題をやろうとしても集中できない。


ベッドの上で身体を伸ばしていると、着信音がいつもより大きく響いた(気がした)。

「うわっ!はいはいはいっ!も、もしもし?」
『那月です。お泊まりの準備が出来ました。もうそちらに行ってもいいですか?』
「あ、うん、大丈夫!待ってるな!」

通話を切って、あわあわと支度を始めた。
ああ、もっかい部屋の掃除チェックしとけばよかった!
後悔をする暇もなく、俺はばたばたと走り回る。



「よ、よし!これでオッケー!」
最後に部屋の電気を消したら完璧だ。
俺はひとつ頷いて、電気を消した。

「那月、喜んでくれるかな」
ぼそりと呟いたあと、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

「はっ、はい!」
がちゃっとノブを回して、なるべく部屋の中が見えないようにするりと外に出た。
「お待たせしました。はい、これは千晴くん用のうさちゃんです」
「あはは、ありがとう。可愛い」
「千晴くんの方がとってもキュートですよ」
にこにこと嬉しそうに見つめられて、恥ずかしさに俯いた。

「と、とにかく、入って!えっと、ちょっとびっくりするかもしれないけど」
「良いもの、楽しみです。お邪魔します」
「あっ!たんま!待った、目つむって!」
「目をつむるんですか?」
「サプライズだよ!いいから、目つむって」
「わかりました」

サプライズという言葉にくすっと笑った那月は素直に目をつむった。
「はい、じゃあ俺が手を引くからそのまま歩いて」

部屋へと那月を招き入れて、ベッドまで歩く。
ベッドに座らせると、俺も隣に座って緊張に渇いた喉でそっと囁いた。

「いいよ、開けて」
「はい。……うわぁ!すごいです……」
那月の視線は天井……いや、俺が用意したプラネタリウムが映し出す夜空だった。

「那月、星が好きだからプラネタリウムも好きかと思って」
「本物の星空みたいにキラキラ光って、とっても綺麗です!」
「良かった。喜んでもらえたみたいで」
「僕のためにこれを?」
「まあ、ね」
「ありがとうございます!千晴くん大好きですっ」
ガバッと抱きつかれて、ベッドに二人で沈んだ。


「あははっ!びっくりしたじゃんか!」
「ごめんね、でも嬉しくって……」
「ううん。こんなに喜んでもらえるとは思わなかったから、俺も嬉しいよ」

俺は抱きつかれたままで、頭の近くに置いておいたリモコンを手に取る。
「見て。これ、日本じゃあんまり見られない星座も見れるやつなんだって」
360°どの角度からも見れるように動く仕組みになっているそれで、さまざまな星座を見せる。

那月は本当に星座が好きみたいで、有名な星座の話を教えてくれたりもした。
「ふふ、楽しいね」
「うん。那月はたくさんの物語を知ってて驚いてるよ」
「地元にいたときはよく夜空を見ながら眠ったんです。お話を思い出すと、星さんが本当にその形になって動いてくれるんじゃないかと思って、たくさん星座の本を読んだんです」
「へぇ、何だかロマンチックだな。北海道なら星もたくさん見えそうだ」
「はい!たっくさん見えますよ!……いつか一緒に見ましょう」
「うん。約束」

にこりと笑いあって、抱き合いながら二人で過ごすいつもと違う幻想的な時間。

「それに、南十字星も見に行こう。那月の大好きな星」
「はい。二人でハンモックに寝て輝く南十字星を見ましょう。きっと素敵な時間になりますよ」
「ちょっと恥ずかしいけど、いいね」
「もちろん千晴くんは僕の腕の中で眠るんです」
「……今もじゃん」
「ずっとこうしていたいんです。……嫌、ですか?」

いきなり那月の声音が甘ったるくなった。
俺は首を横に振るので精一杯だ。

「よかった。僕だけかと思いました」
ぎゅうっと強めに抱き寄せられたら、身体も唇も距離がなくなった。


優しく触れた唇は次第に啄むキスに変わる。
愛おしむようなキスに胸がきゅんと締め付けられた。

まるで本当に夜空の下にいるみたいだ。
星をたくさん集めたみたいにキラキラと光る那月の瞳を見つめると、キスがぐっと深くなる。

「ん……」
「可愛い僕の千晴くん、大好きです」
「那月、俺も……愛してる」

お互い以外何も見えなくなって夢中で唇を求めていると、無機質な音に邪魔をされた。
「あ!忘れてた!」
「どうしました?千晴くん」
「誕生日おめでとう、那月!」

もしものためにと12時にアラームをセットしておいて良かった。
「これで、一番に那月におめでとうって言えた!」
それが嬉しくて嬉しくて、先ほどまでの甘い空気を忘れてプレゼントを渡した。

「とぉーーっても嬉しいです!千晴くん、一生僕の傍に居てくれますか?僕だけの千晴くんで居てくれますか?」
「居るよ。那月が嫌がっても、那月はもう全部俺のだから離してやんない」
そう傲慢にも言い切ると、那月はそれを望んでいるとばかりに喜んで抱きしめてきた。

「僕が嫌がるわけないじゃないですか。僕には千晴くんしか居ないのに」
「翔とか七海に可愛い可愛いっていってるくせにさ」
「翔ちゃんも春ちゃんも可愛いでしょう?それでも、千晴くんにはこの銀河の誰も勝てないんです。千晴くんが、何よりも僕の一番なんですから」
そうキッパリ言い切られると、嬉しさに負けないほど恥ずかしさも出てくる。

「じゃあ、ずっと一番でいられるように頑張るよ」
照れ隠しにちゅっとおでこにキスをしただけで目を輝かせてくれる那月は。
本当に那月を好きになって良かった。
毎日そんなことを思ってるなんてさすがに恥ずかしくて言えないけど。


「那月、もう寝よう」
「はい。千晴くんをぎゅってしたまま寝てもいいですか?」
そんな些細な願いを叶えてやれるのが自分だということに満足して、俺はゆっくりと頷いてシーツの海に二人で沈んだのだった。


>>>
オチはどこですかーー!!
もうちょっと違うのも考えていたんですが、とりあえずなっちゃんおめでとう!!
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ