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□翔
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・翔ちゃんが25歳になってます。そこそこ身長も伸びてます。未来から来たけどたいして話に出てこない。

「おい千晴、起きろ」
「んー……もうちょっと」
低血圧の俺がむにゃむにゃと布団に甘えていると、くすくすと笑う声。

「何で笑うんだよ、しょ………う?」
途中で語尾を疑問系に変える。
なぜかって、俺の目の前には翔だけど翔じゃないような男がいたから。
「相変わらず、寝起き悪いな」
「えーっと、翔?」
「おう」
「でもさ、翔ってもうちょっと小さかった気がすんだけど……俺の目くらいに頭があって……まさか一晩で奇跡的な成長を見せた?」
「いや、俺25だぜ。身長も早乙女学園を卒業したあたりから伸びた」
「はい?」
卒業って、俺たちは今まさしく卒業オーディションのために死に物狂いで曲を作っているはずなんだけど。

「夢?」
「いや、信じないかもしんないけど、未来から来たんだ」
「はぁぁ!?」
意味わからん。やっぱ夢だこれはうんそうだ早く目を覚ませ俺。
頬をつねるというおっそろしく古典的な方法で目を覚まそうとしたけれど、夢から覚める気配はまったくない。
つか、強く抓りすぎて痛い。


「ま、信じなくてもいいぜ。どうせすぐ戻るし」
あっさりとした物言いに拍子抜けしつつ、そろりとベッドから下りる。

とにかく顔を洗ってコーヒーを飲んで、それからきちんと考えよう。
一人で頷いていると、後ろからキュルル、と何とも可愛らしい音が聞こえた。
「千晴、腹減った」







あーなんで俺は朝飯を作っているのでしょうか。

「お、ウマい」
つうか何で馴染んでんだこの人は!
普通、もっと弁解とかしない?
自分が未来人だって証拠を見せそうにもないし、バクバクと俺の作った飯を食べるだけだ。


それにしても、誰ですかこのイケメンは。
こんなの俺の可愛い翔ちゃんじゃない!
声も少し低くなってるし、身長は先ほど述べた通りだ。少しだけ襟足が長くなっていて、相変わらず黒い爪には15歳の翔にはない色っぽさを感じる。

本当に翔なのかな、この人。
翔のお兄さんとか?いやでも兄弟は薫くんだけだし……。

「ん?どうした千晴」
こんなイケメンにピヨちゃんのお茶碗とマグカップを使わせてるのがなぜだかとても申し訳ないんですが……。
何でそんなキラキラオーラを放出させてピヨちゃんマグカップでお茶飲んでんの……。

ギャップにきゅんきゅんするじゃんか!!

心の中でそう叫んでも、実際はほぼ無言だ。
何を話せばいいのかもわからないし、ましてや25歳の翔がまだ俺と一緒にいるのかもわかんないし……。
背が低かったから女の子みたいに可愛がられてた翔だけど、一般的な身長になってこんなキラキラしてたら、女の子に言い寄られて選り取り見取りなはずだ。


あーあ、面倒なことに気づいちゃったな。
元より朝は食欲がないのに、更になくなった俺はコーヒーを淹れて一息ついた。


「何、もう食わねえの?朝弱いなぁお前」
自称翔に頭をポンポンと撫でられた。
ちくしょー、手もでかくなってるし。

「終わったんなら、洗うから持ってくぜ」
「あっ、俺がやります!」
「ぶはっ、何で敬語なんだよ」
「え、だって一応年上?だし……」
「はは、信じてくれんのな。サンキュ。いいからコーヒー飲んでな」
唇をむにっとつままれて、俺は恥ずかしくて俯いてしまった。

翔ってこんなこと恥ずかしくてできないと思ってたけど……。
やっぱ、こういうのに慣れるほど色々経験してんのかな。



何で朝から落ち込まなきゃいけないんだと思いながら、コーヒーを啜る。
はぁ、それにしても今日が休日で本当に良かった。
翔は出かけてるし、この自称翔は誰とも会わせないようにしなきゃ。


カチャカチャと食器を洗う音がした。
手伝おうとも思ったけど、話しかけるのも気まずい。
それでももうコーヒーは飲み尽くしてしまった。

んー……。眠い。
寝ちゃおっか、な?
ズルズルとソファに懐くと、片付け終わったらしい自称翔がこちらに来たのがわかった。


「千晴」
「……何ですか」
「お前がさっき考えてたこと、当ててやろうか」
さっきっていつのことだ。

「俺と話すのは気まずいなーとか、背も高くなったし、女の子なんか選び放題だなとか」
「!!」
一気に眠気が吹っ飛ぶ。
「俺と千晴が今でも付き合ってんのか、とか」
「………」
「図星?」
ひょいっと顔をのぞき込まれて、俺はとっさに顔を逸らした。

「別に、」
「なあ千晴、俺のこと好きか?」
「は?」
「あー、そうじゃなくて、えーと、今のお前と同い年の俺」
「ちっちゃくて可愛い翔のこと?」
「かわ……。ったく、ああ、そうだよ!」
可愛いって言うんじゃねえ!と怒らないあたり、この翔は成長したんだろうなと思う。
「一生大好きに決まってるじゃないですか。翔のこと一番想ってるのは俺なんですから」
もしもう付き合ってないのだとしたら、俺を振ったことを死ぬほど後悔させてやろうと思って、強気にもそう告げた。

するとサッと頬を赤らめて、翔はあーだのうーだのと呻き始めた。
「お前のそーいうとこ、全然変わってないな。………好きだぜ、千晴。今のこの時代の俺も、未来の俺もな」
くしゃりと髪をまぜられた。気恥ずかしかったのか、それは少しだけ乱暴で。

「そんな顔すんなって」
どんな顔だろうと思いながら、安堵した俺はそれを内心喜んで受け止めた。
「なぁ千晴、ずっと俺の傍にいてくれよ。どんなに呆れてもムカついても、俺にはお前しか居ないからさ」
「……そっちの時代の俺に言えばいいじゃん」
「25の千晴は、俺が千晴にベタ惚れって知ってるからいいんだよ」
おおよそ翔から聞くことのできないであろう言葉に、カッと身体中が熱くなる。

「やっぱ、あんた、翔じゃない……翔はそんなかっこいいこと言えない」
「ははっ、だな。だから、千晴に傍に居てもらいたいんだ。俺の隣で笑っててくれれば……」
言葉を切った翔が切なげな瞳で俺を見つめる。

「な、に?」
「………いや、とりあえずミッションコンプリートしたから余計なことはやめとく」
「ミッションって、なに」
「未来の千晴からのお願い、かな。『15の千晴に好きって伝えてくれ』って」
何だそのミッションは?
恥ずかしいというか、なんというか……。

「未来の千晴が今の千晴だった時に、俺のこと諦めそうになったって言ってたんだ。でも、その時の未来の俺がちゃんと好きだって言ってくれたから、未来でも一緒に居られるんだって。あー、なんか俺まで頭混乱してきた」
わかったようなわからなかったような説明を受ける。
「とにかく、25の俺は25の千晴を、15の俺は15の千晴をちゃんと好きだから心配すんなってこと」
わかったか?と今度は本当に照れているらしく、鼻をつままれた。


「よし、言いたいことも言ったし、そろそろだな」
「そろそろ?」
「未来に帰るんだ」
「え、」
だってせっかく未来の翔に会えたのに、もう?

「じゃあな」
ちゅっと額に口づけられて、驚きに目をつむった。
すぐに目を開けたけど、そこにはもう大人の翔は居なかった。


「……夢?なわけないないか」
額の感触がちゃんと残ってるし、水切りカゴに茶碗が入ってる。


「翔………」
なぜだか無性に今の時代の翔に会いたくなった。
帰ってきたら一番に抱きしめようと、くすぐったい気持ちを我慢した。


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楽しいお題とは裏腹になんかテンションの低い話になってしまいました……。
未来の翔ちゃんたちも書こうか迷ってます……
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